順位予想や戦力分析なるものは野球に限らずあらゆるスポーツのファン界隈で非常にポピュラーですが、実の所その中身は感覚論に従うこと部分が多く、曖昧なロジックを元に成り立っているのが現状。
ラッキーなことにMLBではPECOTAやZiPSを初めとして成績予測システムなるものが充実しており、統計的かつ客観的な同システムを大いに参考とすればいいはずなのですが、辱めもなく自らの感覚論を振りかざしてそれらを否定する残念なファンが多数見受けられます。
もちろん私もその一員で、毎年コンテンドを行うヤンキースに対し浅はかな戦力分析を行っていたのですが、いっちょここいらでチームの全体戦力やロースター構成について理解を深めておこうと考えた次第。
そこで今回は、地区優勝クラスのシーズン成績を残すために必要なチーム戦力とその標準的かつ理想的な構成について考察を行い、ヤンキースの目指すべき雛形を仮に設定します。
目次
1:平均的な地区優勝チーム
今回の記事は地区優勝を目指すチームの”標準的”かつ”理想的”なチーム構成を仮に導き出すことが目的ですが、その為には目標とすべきチーム成績(戦力)を設定する必要があります。
そこで、過去5シーズン(2017年以降)の地区優勝チームの勝敗数を調べたところ、平均98勝前後(正確には平均98.5勝・勝率.610)を推移していることが判明。もちろん、地区によって優勝へのハードルは大きく変わってくるのですが、取り敢えずシーズン98.5勝程度のチームを平均的な地区優勝チームと考えます。
また、WARにおいては「全選手がリプレイスメントレベルのチーム=勝率.294(47.6勝)」と設定されており、シーズン98勝を記録するには理論上チーム全体で(98.5-47.6≒)51WARを稼ぎ出す必要があるわけで、今回の考察の根幹となる地区優勝チームの目標値はチームWAR=51に設定することとします。
2:投手陣と野手陣のバランス
Baseball ReferenceはWARの投手:野手比を41:59に設定しているので、51WARをこの比率に当てはめると投手WAR=21:野手WAR=30に。
もちろん、「地区優勝するようなチームは比率が通常と異なるのでは?」とも考え、過去5シーズンの地区優勝チームの比率も別に調べてみたのですが、上記の設定値とほぼ変わらない比率(39:61~40:60ぐらい)でした。
つまり、地区優勝クラスの強豪チームであろうが、地区最下位を争う弱小チームであろうが、投手陣と野手陣の戦力バランスなど別に変わらないというわけです。
ただ、今回はあくまでもレギュラーシーズンに着眼しているので、ポストシーズンなど短期決戦における最適な戦力比は知らんよ。
3:野手陣の内訳を考える
投手陣と野手陣それぞれの目標値が分かったところで、まずは野手陣の各ポジションの比率を考えます。
まあ比率を考えると言っても、単にMLB全体における過去5シーズンの各ポジションの平均WAR(合計WAR)を割り出しただけですけど。
で、その割り出した比率を前章で導き出した目標値チーム野手WAR=30に落とし込み、各ポジションのWARの目安を以下の通りに算出しました。
C | 1B | 2B | 3B | SS | LF | CF | RF | DH | |
比率 (%) |
8 | 10.6 | 11.7 | 13.3 | 15.4 | 9.1 | 12.1 | 11.2 | 8.5 |
WAR | 2.4 | 3.2 | 3.5 | 4.0 | 4.6 | 2.7 | 3.7 | 3.4 | 2.5 |
(上記の比率は単なる過去5シーズンの平均値でなく、ナショナルリーグにDH制がなかった2021年以前の値を補正したものとなっています。)
4:レギュラーと控え選手
前章はあくまでも各ポジションのシーズン162試合(約1435イニング)の合計値を示しただけなので、次にレギュラー選手と控え選手へそれを分割します。
過去の複数シーズンにおける各ポジションのレギュラー選手との出場比率を調べてみたところ、レギュラー選手と控え選手の出場比がキャッチャーとセンターを除く7ポジションでは総じて85:15、キャッチャーは65:35、センターは80:20程度であることが分かりました。
また、現在のルールではアクティブロースター26人&投手数上限13人と定めらていることから、レギュラー選手9人/控えキャッチャー1人/控え内野手2人/控え外野手1人が標準的な野手構成となっており、その標準構成にレギュラー:控え比率を落とし込むと下記表の通りとなります。(レギュラーと控え選手の単位出場機会当たりの貢献度を同等と想定するという愚かな手抜きを行っているけど気にすんな。忘れろ。)
ちなみに、DHの控え選手分15%は他8ポジションの控え選手分へ均等に割り振りました。
C | 1B | 2B | 3B | SS | LF | CF | RF | DH | |
先発 | 1.6 | 2.7 | 3.0 | 3.4 | 3.9 | 2.3 | 2.9 | 2.9 | 2.1 |
控え | 0.9 | 1.2×2選手 | 1.8 |
偶然にもレギュラー選手の合計WARは25.0、控え選手の合計WARは5.0となっていますが、実際にはプラトーン起用、故障や選手補強による入れ替わり、WARマイナスを叩き出すチームの足枷の存在などによって、上記の単純な構成が現実となる可能性が限りなく低いことは百も承知。
ただ、本記事のタイトルを見ても分かるようにあくまで標準的かつ「理想的」なチーム構成を考えているのですから、そこら辺はご愛嬌ということで。
5:先発ローテとブルペン
前章で取り敢えず野手陣の目標値が導き出されたところで、ここからは投手陣について考えていきましょう。
まず、先発投手とリリーフ投手が受け持つWARの比率ですが、よりリリーフ投手に重きが置かれるようになったここ数年におけるMLB全体の比率は大体69:31です。もちろん第2章と同様に地区優勝チームの比率も確認していますが、意外にも69:31とほぼ変わらない値でした。
この比率を目標値であるチーム投手WAR=21に当てはめると先発投手陣の合計WARは14.4、リリーフ陣は6.6に。
6:先発ローテの内訳
前章の先発投手陣の合計WAR=14.4を先発ローテ内で分配するため、過去3シーズンの地区優勝チームの1~5番手及び6番手以下の平均WARを算出。
その結果が下記表となります。
1番手 | 2番手 | 3番手 | 4番手 | 5番手 | 6番手以下 |
4.8 | 3.6 | 2.8 | 1.8 | 0.8 | 0.6 |
また、上記集計チームの先発ローテ5人の先発登板数を調べたところ、5人の先発登板数の合計値の平均は132試合に。つまり先発投手5人を用意したとしても、何らかの理由(大体はローテに故障者が発生)で162試合中30試合は他の投手(先発ローテ6番手以下)が先発を務めるというわけ。
その30試合を受け持つ投手は大まかに①リリーフ陣の先発兼任投手、②マイナーのプロスペクト、③トレードデッドライン補強投手に分けることができるわけですが、複雑な事を考えるのは面倒なので6番手以下の0.6WARは、テキトーにリリーフ陣と先発1~5番手へ0.3ずつ振り分けることにしましょう。
よって、先発ローテ5人の内訳は最終的に下記表の通り。
1番手 | 2番手 | 3番手 | 4番手 | 5番手 |
4.9 | 3.7 | 2.9 | 1.8 | 0.8 |
7:リリーフ陣の内訳
リリーフ陣の目標値は6.6WAR。前章の先発6番手以下分からの振り分けも含めると合計6.9WAR。
現在はアクティブロースター上の投手数が13人に制限されているため、先発投手5人に対しリリーフ投手8人の構成が標準ですが、野手陣や先発ローテと比べ圧倒的にメンバーの入れ替わりが激しいリリーフ陣には、ロジカルなアプローチを行うだけ無駄。
よって、シンプルにMLB全体のリリーフ投手の成績分布からリリーフ投手8人の内訳を考え、上位4人を勝ちパターン、残り4人を敗戦処理やロングリリーフ、先発5人ローテの穴を埋めるなどフレキシブルに起用されるポジションに設定しています。
勝ちパターン |
先発兼任 |
||
1番手 | 1.7 | 5番手 | 0.8 |
2番手 | 1.4 | 6番手 | 0.6 |
3番手 | 1.0 | 7番手 | 0.4 |
4番手 | 0.8 | 8番手 | 0.2 |
何度も言うけどあくまでも理想だからね。
8:結論
最後に結論として、導き出された「地区優勝を目指すチームの”標準的”かつ”理想的”なチーム構成」をまとめておきましょう。
野手陣
ポジション | WAR |
キャッチャー | 1.6 |
ファースト | 2.7 |
セカンド | 3.0 |
サード | 3.4 |
ショート | 3.9 |
レフト | 2.3 |
センター | 2.9 |
ライト | 2.9 |
DH | 2.1 |
控え捕手 | 0.9 |
控え内野手① | 1.2 |
控え内野手② | 1.2 |
控え外野手 | 1.8 |
投手陣
ポジション | WAR |
先発 1番手 | 4.9 |
先発 2番手 | 3.7 |
先発 3番手 | 2.9 |
先発 4番手 | 1.8 |
先発 5番手 | 0.8 |
リリーフ① | 1.7 |
リリーフ② | 1.4 |
リリーフ③ | 1.0 |
リリーフ④ | 0.8 |
リリーフ⑤ | 0.8 |
リリーフ⑥ | 0.6 |
リリーフ⑦ | 0.4 |
リリーフ⑧ | 0.2 |
9:2022年成績の仮想チーム
2022年シーズン個人成績が前章の各ポジション目標値に最も近い選手を抽出し、シーズン98勝級の仮想チームを参考として作成しておきます。
野手陣
選手名 | 所属 | ポジション | WAR |
キーバート・ルイーズ | WSH | C | 1.6 |
リース・ホスキンス | PHI | 1B | 3.1 |
DJ・ラメイヒュー | NYY | 2B | 3.9 |
エウヘニオ・スアレス | SEA | 3B | 4.0 |
ウィリー・アダメス | MIL | SS | 4.4 |
ランディ・アロサレーナ | TBR | LF | 2.8 |
セドリック・マリンズ | BAL | CF | 3.8 |
スターリング・マーテ | NYM | RF | 3.8 |
カイル・シュワーバー | PHI | DH | 2.2 |
ライアン・ジェファーズ | MIN | C | 0.9 |
ロドルフォ・カストロ | PIT | IF | 1.3 |
ケビン・ニューマン | PIT | IF | 1.1 |
アーロン・ヒックス | NYY | OF | 1.8 |
投手陣
選手名 | 所属 | ポジション | WAR |
ローガン・ウェッブ | SFG | 先発① | 4.8 |
トリストン・マッケンジー | CLE | 先発② | 4.0 |
ドリュー・ラスムッセン | TBR | 先発③ | 2.9 |
ノア・シンダーガード | PHI | 先発④ | 1.8 |
マイク・クレビンジャー | SDP | 先発⑤ | 0.7 |
エリック・スワンソン | SEA | リリーフ① | 1.7 |
ブライアン・アブレイユ | HOU | リリーフ② | 1.3 |
タイラー・ロジャース | SFG | リリーフ③ | 0.9 |
グリフィン・ジャックス | MIN | リリーフ④ | 0.9 |
クラーク・シュミット | NYY | リリーフ⑤ | 0.8 |
マット・ウィスラー | TBR | リリーフ⑥ | 0.7 |
タナー・バンクス | CWS | リリーフ⑦ | 0.4 |
マット・ブラッシュ | SEA | リリーフ⑧ | 0.2 |
コメント
更新多くて嬉しいってモンタスも言ってます
逆にモンタスへゾーン内に変化球投げるなと言っておいてください。
こういう記事待ってました!
監督の采配評価指標何かありますか
短期・中期・長期で違うと思いますが
ブーン監督のオツムはどうなんでしょうか
確かビル・ジェームズが作ってました
何を指しているかよく分かりません
弱小球団ならまだしもNYYに相応しいオツムではありません