MLBを初めとしてアメリカ4大リーグやMLSでは、各チームが地元のRegional Sports Network(地方テレビ局、以下RSNと表記:”地方”と言っても大半は巨大メディア企業の子会社)と放映権契約を結び、ケーブルテレビや衛星放送のパッケージの一部としてチームの地元家庭に試合が届けられています。
ただ、一部のチームはオーナー等が自らRSNを設立することで自前の試合放映を行っており、その最たる例がヤンキースとYESネットワークでしょう。
ヤンキースは現在YESネットワークの26%を所有していますが、チームとネットワークの歩みについては下記の過去記事を参照してください。
短絡的に言えばYESネットワークの業績がヤンキースのファイナンスに大きな影響を与えるわけですが、ストリーミングサービスの急成長に伴いテレビ放映市場は崩壊への道を辿っており、コロナも災いして大半のRSNの経営は火の車。
(アメリカスポーツ界におけるRSNの悲惨な状況についても詳しく書きたいところですが、長くなりそうなので今回は割愛。)
下表に過去4年間のYESネットワークとMLB30球団のRSN全体における平均視聴率及び平均視聴世帯数を記しましたが、MLB全体ではコロナ禍によって視聴者数が一気に減少。コロナ禍終了後も以前の水準に戻ることはありませんでした。
観客動員再開によって現地観戦にパイを奪われ、さらにストリーミングサービスなどテレビ以外の媒体へ移行するファンが日々増加する一方とは言え、厳しい状況であることは確か。
年度 | MLB平均 | YESネットワーク | ||
視聴率 (%) |
視聴世帯 (万世帯) |
視聴率 (%) |
視聴世帯 (万世帯) |
|
2019 | 3.4 | 7.3 | 3.1 | 21.8 |
2020 | 3.0 | 6.2 | 2.5 | 17.0 |
2021 | 2.9 | 6.0 | 2.8 | 17.9 |
2022 | 2.5 | 6.1 | 2.9 | 21.9 |
しかしながら、そういった状況の中でも2022年シーズンのヤンキースは、シーズン前半戦の大躍進とアーロン・ジャッジのホームラン記録更新フィーバーにより良好な成績を記録。RSN不況の中でもブランド力を大いに見せ付けました。
まあ、これだけの好条件が揃っていたにも拘わらず観客動員数はコロナ過前の値を大きく下回ったので、視聴率や視聴世帯数の復活を楽観的に捉えるべきではないのかもしれませんが…。
ちなみに、上表で視聴世帯数を便宜上用いましたが、視聴者数については2021年から2022年にかけて平均29万人から平均36万8000人へ27%増加。これは視聴世帯数の増加率22%を大きく上回っています。
2022年におけるYESネットワークのアフェリエイト収益(視聴料金やコンテンツ売上)は推定4億8600万ドル。
ヤンキースの他にNBAのブルックリン・ネッツの放映権を保有しているとは言え、RSNの中で2番手のMSGネットワーク(NBAのニックス、NHLのレンジャーズ、デビルズ、アイランダーズ、MLSのレッドブルズの放映権を保持)が推定3億1000万ドルであることを考えると、桁違いの収益を稼ぎ出していることが分かります。
全米のRSN(全体平均)とYESネットワークの経営比較
年度 | 項目 | RSN平均 (百万ドル) |
YESネットワーク (百万ドル) |
2021 | 売上高 | 148.5 | 585.0 |
営業費用 | 108.2 | 400.7 | |
2022 | 売上高 | 142.8 | 562.7 |
営業費用 | 112.5 | 414.8 |
ただ、視聴者数が増加したものの他のRSNと変わらず利益率は悪化。2022年の推定売上高(アフェリエイト収益+広告料他)は2021年の5億8500万ドルから約4%ダウンとなる5億6270万ドルであり、反対に支出(ヤンキースに支払われる放映権料約1億3000万ドルも含む)は増加。
単なる売上高と営業費用のデータしか持ち合わせていないので、それ以上に詳しいことは分かりかねますが、流石のYESネットワークもテレビ業界不況の煽りを受けている模様。
当然ながら26%を保有するヤンキースにとっても営業利益は非常に重要であり、2010年頃はYESネットワークから放映権料と別に約1億ドルを得ていましたが…。