ESPN Opt-outとApple TV台頭の経緯(MLB放映契約)

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EPSNが放映契約(2026~2028年分)を解除したことを受け、皆さんが大嫌いなApple TVも絡めながら、ここ10年間程度の放映権界隈のタイムラインを記しました。



今日までの経緯

2010年

TEXがFox Sportsと20年総額$16B(年平均$80M)+RSN所有権10%のメガディールを結び、次世代プラットフォームの台頭を軽視した愚かな放映権バブルがスタート。

2012年

2007年からの7年契約によって2013年まで全国放映権を保有するFOX・ESPN・TBSの3局が、Bud Selig政権下のMLBと新たに8年契約(2014~2021年)を締結。

新契約において、FOXの年平均放映権料は104%アップ($257M→$525M)、ESPNは137%アップ($296M→$700M)、TBSは181%アップ($149M→$325M)となり、初めてMLBの全国放映権料が$1Bを上回る形に。

2017年

数年前から続く業績不振を理由に、ESPNが世界金融危機以来となる大規模なレイオフを敢行。

また、レイオフの影響か、この頃から製作番組のクオリティが低下したと言われています。

2017~2018年

2017年頃、子会社のRSN 22社を通して43チーム(MLB15チーム、NBA16チーム、NHL12チーム)の放映権を保有する大企業”21世紀FOX”が身売り交渉を開始。

紆余曲折を経て2018年、ESPNを支配下に置くDisenyへの身売りが内定するも、RSN 22社の買収については独占禁止法の観点から司法省の認可が下りず、Diseny以外の売却先や分割売却・一部売却を模索するハメに。

2018~2019年

ストリーミングサービス等の台頭によって、アメリカ国内におけるTV(特にケーブル放送)離れが加速。

その煽りをモロに受け、2017年時点で約$20~25Bと評価される21世紀FOX傘下RSN 22社の価値が暴落し、21世紀FOX×他企業との売却交渉は難航。

21世紀FOXに対しMLB機構自ら入札を行うという異常事態も発生。

結果として、2019年に21世紀FOXはRSN 22社のうちYES NetworkをNYY率いる投資グループに評価額$3.5B、そして残り21社がSinclair Broadcast Groupに評価額$10.6Bにて売却。

この頃になると、各球団×地元RSNとの新規放映契約においても、放映権料や契約条件が以前の水準へ達しないようになっており、多くのファンは気付いていていなかったものの、MLBの放映権バブルが実質的に終了。

2018年

2021年シーズンの放映契約終了に向け、2022年以降の次期契約(7年契約:2022~2028年)の本交渉が開始。

ESPNとTBSに先駆け、シーズン終了後(11月)にFOXがMLBと7年総額$51Bで合意。

既存契約から放映パッケージはほぼ変わらないものの、FOXの年平均放映権料は39%アップ($525M→$729M)する形に。

2019~2020年

AT&Tが業績不振に陥っているRSN 4社(MLBではHOU、SEA、COL、PITの放映権を保有)の売却を目論むも、他会社からの提示額が当初見込まれていた企業価値の半額にも満たず、コロナ禍開始直前に売却を断念。

また、AT&Tが売却を断念すると時を同じくして、Sinclairの株価がRSN買収直前から10ヶ月程度で約50%暴落。

2020年

ご存知の通り、コロナ禍によってシーズン短縮&無観客開催に。

さらに、熱狂に欠け無機質な無観客開催は視聴者を集めることが出来ず、視聴率とテレビ局の業績は見るも無惨な姿な姿に。

また、9月にTBSが7年総額$37.5BでMLBと合意。

FOXと同じく放映パッケージに大きな変更はなく、新契約によって年平均放映権料は65%アップ($325M→$535M)

2021年

上述のFOXやTBSと大きく異なり、契約交渉が難航していたEPSN×MLBが遂に契約合意(5月)

ただ、他2社と同様に放映権料50%前後の増加が見込まれていたものの、蓋を開けてみれば7年総額$3.85Bと驚きのロープライスで、年平均放映権料は$700M→$550Mの21%ダウン

また、契約交渉難航および放映権料ダウンの最大の理由は、レギュラーシーズン戦を年90試合放映していたESPNが、注目度が低いカードの放映試合数削減、言い換えれば人気チームが絡み注目度が高い試合に絞ることを求めたため。

そして、実際に次期契約ではレギュラーシーズン戦の中継が年90試合から年30試合へ大幅に削減されることになりました。

さらに、ポストシーズン拡大(WC 2シリーズの追加=出場枠4チーム追加)が実現した場合には、追加されるWC 2シリーズの放映権をESPNに与えることが契約に盛り込まれており、実際にESPNが2シリーズの放映を現在も行っています。

つまり、2022年からのポストシーズン拡大は、MLB中継に消極的かつ契約交渉でゴネるESPN様のためにポストシーズン放映枠を作って差し上げたという意味合いもあるわけです。

他には、既存のWC 1シリーズ、ホームランダービー、春季キャンプ戦、ポストシーズン拡大が実現しなかった場合の補填(レギュラーシーズン戦8試合)、2025年終了時のOpt-outの権利も契約に含まれています。

2022年

ESPNのお陰で約60試合もの放映枠が余ってしまったわけですが、MLBがそれを処理するに当たり白羽の矢を建てたのが…、そうです、天下の大企業Appleです。

ESPNに押し出される形でAppleとの契約交渉も遅れ、契約締結はシーズン開幕直前の3月とギリギリのタイミングになったのですが、Appleは1年間に放映権料他$85Mを支払う代わりにApple TVにてレギュラーシーズン戦を年50試合放映することに。

まぁなんとなく分かると思いますけど、1試合当たり$1.7Mはかなり安価。

しかも、アメリカ国内だけでなく海外放映もAppleが独占する好条件。

Appleの放映試合がMLB.TVで見られず、Apple TVへの加入が必須となっているのも、当契約で日本放映権の独占をAppleに許してしまったことが理由です。

だって、ESPNとTBSは日本へ進出していないし、FOX Sportsも約10年前に日本から撤退してるからね。そういった中で、日本でも事業展開しているAppleないしApple TVに売っちゃったわけですよ。

なんか、全体的にAppleに足元を見られたような感じがします。

元はと言えば、ESPNを初めとする各企業に突き放され、NFLやNBAにパイを奪われるなど、人気凋落に直面しているオワコンMLBが悪いけどね。

ちなみに、長らくMLBから撤退していたNBCもAppleと共に放映権を獲得しており、レギュラーシーズン戦年間18試合に対し$30Mを支払っていますが、こちらは海外放映の独占権が含まれなかったため、日本ではMLB.TVで視聴可能に。(2024年からはNBCと入れ替わる形でRokuが放映権を獲得。$10Mを支払い年間10試合放映。)

2023年

Disenyがグループ全体で7000人規模のレイオフを敢行。

傘下のESPNにおいては、裏方のスタッフだけでなく番組出演者や幹部(副社長含む)にもレイオフが及びました。

2023~2024年

Sinclairの子会社Diamond Sports Group(傘下RSN)が連邦倒産法第11章を申請し、一部のまともなファンとメディアのみが気に掛けていたスポーツ放映のビジネスモデル崩壊が白日の下に。

MLBのローカル放映権を多数所有するシンクレア社の経営危機と放映権を巡り2023年MLBで起こりうる大混乱について。

2024年

ESPN+の不調を横目に、他のストリーミングサービスやスマートフォン向けコンテンツが成長を見せ、ESPNの業績が予想以上に良化。

2025年

Diamond Sports Groupの乱に並行して噂されていたESPNのOpt-out(2026~2028年)が遂に実現。

ESPNはApple TVやRokuの契約内容を根拠に、放映権料の減額を求めていたとのことで、やっぱりAppleとの契約は失敗じゃないかと。


雑感と今後について

ESPNのOpt-out行使については、昨年からスポーツビジネス系メディアの間では幾度が取り上げられており、私にとっても寝耳に水の話では全くありません。

当然ながらOpt-out→再契約(契約規模縮小)ないし契約変更について交渉を行っており、個人的には再契約・契約変更に落ち着くと思っていたのですが、再契約の可能性は低いとのことで、ESPNとは本当に今年でオサラバとなりそう。

EPSNに並行して他企業とも水面下で交渉を行い、ある程度内定しているかと思いますが、何処がEPSNの放映枠を引き継ぐか?

NBCやCBSなど日本で謂う所の大手キー局、NFL・NBAと大型契約を結ぶAmazon(アマプラ)やNFLとの契約が大訴訟まで発展しているGoogle(YouTube)、最近NFLやWWEと契約を結ぶなどスポーツ中継へ本腰を入れたNetflix等々選択肢は多数。

もちろんAppleが放映枠を増やす可能性さえあります。

そして、日本人としては海外放映権の行方も気に掛かるところで、場合によってはApple TVのように面倒なことを強いられるかも。

また、現地のメジャカスがお得意の負け惜しみ根性を露呈し、どうにか今回の案件をポジティブに捉えようとすると共に、ESPNだけでなくNFL・NBA叩きにも矛先を向ける姿には笑いました。

契約年数や付加条項こそ違えど、MLBと同時期に契約延長を締結したNFLは年平均放映権料が75%アップ($59B→$103B)

さらに、NBAは驚異の159%アップ($27B→$70B)を獲得しており、たったの24%アップ($15.5B→$19.3B)に留まったMLBは両リーグから完全に後れを取っていた存在。

その中で更に放映権料が減額となるわけですから、私なら贔屓リーグの無様な姿に涙を流したいぐらいです。

また、MLB機構とManfredは、全国放映と各チームのRSN放映を全て統合し、全放映をMLB機構が一括して管理運営することを将来的なゴールとして掲げています。

ファンの視聴体験を向上させることではなく、貧乏球団に金を回す、そしてBud Seligの旧友たちに利益をもたらすことが本当の目的かと思いますが、恐らくManfred政権下ではこの方針を推し進めるはずで、2029年以降における現放映契約形態のフレームワーク解体を見据えた動きが今回行われるかなと。