MLB史に残るプロスペクトたち:その3

MLB(アメリカ野球)の歴代名プロスペクトを取り上げていく企画。

MLB史に残るプロスペクトたち(その1)

MLB史に残るプロスペクトたち(その2)



ルーブ・マーカード

野球史に残る超高額契約を結びMLB入り。後に殿堂入りも果たしたデッドボール時代の名投手。

プロ入り前

地元クリーブランド・ナップズ(後のクリーブランド・インディアンズ)のバットボーイを務めるなど子供時代から野球選手に憧れ、1906年・19歳で家出してマイナリーグ・Cクラスのチーム(当時のマイナリーグは実質的に独立リーグでMLBチームの参加ではなかった)に入団。しかし、給料の支払いに納得がいかず即座に退団。

1907年にはクリーブランドのアイスリーム会社セミプロチームに入団。地元でも有名な若手有望投手だったマーカードはアイスクリーム会社勤務で週15ドル、野球選手として週10ドルの報酬を受けており、クリーブランド・ナップズが月給100ドルのオファーを出したもののセミプロの方が好待遇のためオファーを拒否。代わりに月給200ドルのより好条件なオファーを与えたマイナリーグAクラス(今で言うところのAAA)のアメリカン・アソシエーション所属のインディアナポリス・インディアンズ(今のクリーブランド・インディアンズとチーム名が一緒ですがたまたま)に移籍することとなります。

MiLB入り後

インディアンズは手始めにマーコットをAクラスではなくその下のBクラスで起用しますが、若干20歳でチームのエースとして活躍すると翌シーズンにはインディアンズに昇格。平均年齢27歳のAクラスでも勢いは止まらず28勝を挙げリーグ最多勝に。

そして、このシーズン途中にはマイナーリーグ最高のプロスペクトであるマーカードのMLB球団による大争奪戦が勃発。

MLB最高年俸がナップ・ラジョイの8500ドル、当時の契約金(移籍金)最高額が1906年のサイ・セイモア(1905年に首位打者となりそのオフに移籍)の1万2000ドルだった時代にシカゴ・カブスが5000ドル、デトロイト・タイガースが7500~9000ドル、シンシナティ・レッズが1万ドルのオファーを提示した結果、最終的に最高額の1万1000ドルをオファーしたニューヨーク・ジャイアンツ(現サンフランシスコ・ジャイアンツ)への移籍が決定。もちろんこの金額はMLB経験の無い選手への契約金としては断トツの数字でした。

MLB入り後

当時の球界の大エースかつスーパースターであったクリスティー・マシューソンの陰に隠れながらも通常のチームであればエースとしても遜色ない活躍を披露。とりわけ最多勝を獲得した1912年シーズンの19連勝はMLB記録(単一シーズン)。

1971年にはベテランズ委員会により殿堂入りを果たしましたが、殿堂入りにふさわしい通算成績だったは・・・。

Register Pitching
Year Age Tm Lev Aff W L ERA G IP BB SO WHIP H9 HR9 BB9 SO9 SO/W
1906 19 Lancaster C   0 0 inf 1 0.0 0              
1907 20 Canton B   23 13 2.01 39 322.0 113   1.040 6.2   3.2    
1908 21 NYG MLB NYG 0 1 3.60 1 5.0 2 2 1.600 10.8 0.0 3.6 3.6 1.00
1908 21 Indianapolis A   28 19   47 367.0 135 250 1.005 5.7   3.3 6.1 1.85
1909 22 NYG MLB NYG 5 13 2.60 29 173.0 73 109 1.318 8.1 0.1 3.8 5.7 1.49
1910 23 NYG MLB NYG 4 4 4.46 13 70.2 40 52 1.486 8.3 0.3 5.1 6.6 1.30
1911 24 NYG MLB NYG 24 7 2.50 45 277.2 106 237 1.178 7.2 0.3 3.4 7.7 2.24
1912 25 NYG MLB NYG 26 11 2.57 43 294.2 80 175 1.242 8.7 0.3 2.4 5.3 2.19
1913 26 NYG MLB NYG 23 10 2.50 42 288.0 49 151 1.031 7.8 0.3 1.5 4.7 3.08
1914 27 NYG MLB NYG 12 22 3.06 39 268.0 47 92 1.149 8.8 0.3 1.6 3.1 1.96
1915 28 2 Teams MLB BRO-NYG 11 10 4.04 33 193.2 38 92 1.265 9.6 0.4 1.8 4.3 2.42
1915 28 NYG MLB NYG 9 8 3.73 27 169.0 33 79 1.249 9.5 0.4 1.8 4.2 2.39
1915 28 BRO MLB BRO 2 2 6.20 6 24.2 5 13 1.378 10.6 0.0 1.8 4.7 2.60
1916 29 BRO MLB BRO 13 6 1.58 36 205.0 38 107 1.010 7.4 0.1 1.7 4.7 2.82
1917 30 BRO MLB BRO 19 12 2.55 37 232.2 60 117 1.117 7.7 0.2 2.3 4.5 1.95
1918 31 BRO MLB BRO 9 18 2.64 34 239.0 59 89 1.213 8.7 0.3 2.2 3.4 1.51
1919 32 BRO MLB BRO 3 3 2.29 8 59.0 10 29 1.085 8.2 0.2 1.5 4.4 2.90
1920 33 BRO MLB BRO 10 7 3.23 28 189.2 35 89 1.139 8.6 0.2 1.7 4.2 2.54
1921 34 CIN MLB CIN 17 14 3.39 39 265.2 50 88 1.284 9.9 0.3 1.7 3.0 1.76
1922 35 BSN MLB BSN 11 15 5.09 39 198.0 66 57 1.621 11.6 0.5 3.0 2.6 0.86
1923 36 BSN MLB BSN 11 14 3.73 38 239.0 65 78 1.381 10.0 0.4 2.4 2.9 1.20
1924 37 BSN MLB BSN 1 2 3.00 6 36.0 13 10 1.278 8.3 0.8 3.3 2.5 0.77
1925 38 BSN MLB BSN 2 8 5.75 26 72.0 27 19 1.833 13.1 0.6 3.4 2.4 0.70
1926 39 Providence A   3 1 3.71 7 43.2 17   1.511 10.1   3.5    
1927 40 2 Teams AA-A   1 3 4.06 9 37.2 11   1.566 11.5   2.6    
1927 40 Baltimore AA   1 2 3.94 6 29.2 6   1.483 11.5   1.8    
1927 40 Birmingham A   0 1 4.50 3 8.0 5   1.875 11.3   5.6    
1929 42 Jacksonville B   0 0 0.00 2 3.0 2   1.333 6.0   6.0    
1930 43 Jacksonville B   5 4 2.13 15 114.0 21   1.114 8.4   1.7    
1932 45 Atlanta A   1 3 3.60 7 45.0 14   1.489 10.6   2.8    
1933 46 Wichita/Muskogee A   0 0 12.00 1 3.0 1   2.667 21.0   3.0    
Year Age Tm Lev Aff W L ERA G IP BB SO WHIP H9 HR9 BB9 SO9 SO/W
MLB MLB MLB MLB   201 177 3.08 536 3306.2 858 1593 1.237 8.8 0.3 2.3 4.3 1.86
Mino Mino Mino Minors   61 43   128 935.1 314 250 1.111 7.0   3.0    



ハリー・アガニス

高校~大学時代に野球とアメフトの両方で大成功を収めNFLからドラフト指名を受けながらも野球を選びMLB入り。ボストンスポーツ界のスターとして将来を嘱望されながらも急逝したプロスペクト。

プロ入り前

ボストン近郊に生まれ高校時代には野球において1947年にマサチューセッツ州大会優勝&州年間最優秀選手受賞を経験。加えてアメフト部ではクォーターバックとしてチームを牽引し1947年の高校フットボール全米選手権に出場し優勝。翌年も同選手権に出場予定でしたが黒人チームメイトの参加が許されなかったため辞退。とはいえ当然のことながらオール・アメリカン・チームにも選ばれボストンのみならず全米最高クラスのトップアスリートとして話題を集めました。

約75の大学から奨学金のオファーを受けたものの高校卒業後は地元の名門ボストン大学に進学。1949年(2年生)まではアメフトを中心にプレーしてタッチダウン数同大学記録を更新&オール・アメリカン・チームのクォーターバック第2位に選ばれるなど将来のNFL入りは間違いなしでしたが、運の悪いことに1950年の春に朝鮮戦争の徴兵(海兵隊)。

海兵隊ではアメフトと野球の両方を再び本格的にプレーし、野球では同じく徴兵を受けた現役メジャーリーガーなどを相手に打率.347(.362というソースも)の活躍。翌年にはセミプロの全米選手権でMVPに選ばれるなど高校時代と変わらぬ才能を見せつけました。

1951年の9月に除隊し大学に戻ると早速アメフトでオール・アメリカン・チームに選出。1952年(4年生)は骨折により成績を落としましたが野球では打率.322を記録。それでもアメフトの実力&ポテンシャルは疑いようがなくNFLドラフトにおいて1巡目(全体12位)指名&契約金2万5000ドルのオファーを獲得。しかし、そのままNFLで引き続き活躍を続けるのかと思いきや何故か野球続行&MLB入りを希望。

その結果、マサチューセッツ州史上最高の学生アスリートとも称されるアガニスは契約金3万5000ドル(5万ドルという話も)でボストン・レッドソックス入りを果たすこととなります。

プロ入り後

プロ1年目からAAAでプレーするとリーグ平均OPS.724を大きく上回る好成績を残し、1954年シーズンにはMLBで開幕を迎えますが成績はイマイチ。(ポジションを争うライバル選手が肺炎にかかり長期離脱となったためほぼフルシーズンでプレーすることとなりました。)

1956年は対照的に開幕から好調をキープ。しかし、5月にウイルス性肺炎に感染すると10日間入院したものの十分な休養を得ないまま復帰。不運にも(というよりはむしろ必然的に)たった10日間の入院では完治せず復帰1週間で再発。症状は当初のモノよりも悪化しており、6月の下旬には肺塞栓症で急死することに。

アガニスの死はボストンコミュニティーに大きなショックを与え、1日半にもわたる葬儀では数万人が参列。1974年には大学フットボールの殿堂にも選出されています。

Register Batting
Year Age Tm Lg Lev Aff G AB H HR BB SO BA OBP SLG OPS
1953 24 Louisville AA AAA BOS 155 595 167 23 71 109 .281 .359 .491 .850
1954 25 BOS AL MLB BOS 132 434 109 11 47 57 .251 .321 .394 .715
1955 26 BOS AL MLB BOS 25 83 26 0 10 10 .313 .383 .458 .841
MLB MLB MLB   MLB   157 517 135 11 57 67 .261 .331 .404 .735
Mino Mino Mino   Minors   155 595 167 23 71 109 .281 .359 .491 .850



デーブ・キングマン

通算打率.236、OPS.780、wRC+113ながらも1970~80年代においてMLB全体3位の通算442本塁打を記録(最多はマイク・シュミットの548本、2位はレジー・ジャクソンの486本塁打)した名スラッガー。

MLB時代は三振かホームランかの典型的な扇風機として人気を博しましたが、対照的にアマチュア時代は二刀流として活躍する一流プロスペクトでした。

プロ入り前

高校では野球、バスケットボール、アメリカンフットボールを掛け持ち。野球では野手よりも投手として期待されていて、1967年の高校野球シーズン最終戦において2安打完封&1試合4本塁打を記録した後に、MLBドラフト2巡目(全体29位)で投手としてカリフォルニア・エンゼルス(今のロサンゼルス・エンゼルス)に指名されるも契約金5万ドルのオファー(当時のMLB最高年俸はウィリー・メイズの12万5000ドル)を拒否。さらに1968年1月のMLBドラフト(当時はドラフトを年2回開催)でも1巡目(全体9位)でボルティモア・オリオールズに指名されますがこちらも断って大学に進学。

1968年に一度は短期大学に進学するも大学2年生からは名門南カリフォルニア大学に転向。南カリフォルニア大学1年目の1969年シーズンは投手として防御率1.38(11勝4敗)、85回、88奪三振を記録する一方で32打数で4本塁打を放ち、1970年シーズンには何故か投手から野手にコンバート。

シーズン開幕13試合で打率.533、4本塁打、長打10本と絶好調だったものの13試合目で守備の際にチームメイトと接触して足を骨折した上にも靭帯も断裂。残念ながら復帰後は成績を落として最終成績は打率.355、長打率.702、121打数、9本塁打に終わったもののチームはカレッジワールドシリーズ優勝を果たし、1970年のドラフトでサンフランシスコ・ジャインツと契約。

プロ入り後

1970年のシーズン途中に早速AAでプロデビューを果たすと60試合で15本塁打を記録。翌シーズンにはAAAで開幕を迎え105試合で26本塁打を放ちマイナー経験約1年でMLBデビュー。

MLBデビュー後は16シーズンで442本塁打を記録しただけでなく、リグレーフィールド史上最長弾を放つなどパワーとホームランの飛距離だけなら当時の球界ベストだったことは間違いないでしょう。

Register Batting
Year Age Tm Lev Aff G AB H HR BB SO BA OBP SLG OPS
1970 21 Amarillo AA SFG 60 210 62 15 37 64 .295 .401 .562 .963
1971 22 SFG MLB SFG 41 115 32 6 9 35 .278 .328 .557 .885
1971 22 Phoenix AAA SFG 105 392 109 26 32 105 .278 .334 .577 .911
1972 23 SFG MLB SFG 135 472 106 29 51 140 .225 .303 .462 .765
1973 24 SFG MLB SFG 112 305 62 24 41 122 .203 .300 .479 .779
1974 25 SFG MLB SFG 121 350 78 18 37 125 .223 .302 .440 .742
1975 26 NYM MLB NYM 134 502 116 36 34 153 .231 .284 .494 .778
1976 27 NYM MLB NYM 123 474 113 37 28 135 .238 .286 .506 .793
1977 28 3 Teams MLB CAL-NYY 132 439 97 26 28 143 .221 .276 .444 .720
1978 29 CHC MLB CHC 119 395 105 28 39 111 .266 .336 .542 .878
1979 30 CHC MLB CHC 145 532 153 48 45 131 .288 .343 .613 .956
1980 31 CHC MLB CHC 81 255 71 18 21 44 .278 .329 .522 .850
1981 32 NYM MLB NYM 100 353 78 22 55 105 .221 .326 .456 .782
1982 33 NYM MLB NYM 149 535 109 37 59 156 .204 .285 .432 .717
1983 34 NYM MLB NYM 100 248 49 13 22 57 .198 .265 .383 .648
1984 35 OAK MLB OAK 147 549 147 35 44 119 .268 .321 .505 .826
1985 36 OAK MLB OAK 158 592 141 30 62 114 .238 .309 .417 .726
1986 37 OAK MLB OAK 144 561 118 35 33 126 .210 .255 .431 .686
1987 38 Phoenix AAA SFG 20 59 12 2 12 11 .203 .342 .356 .698
Year Age Tm Lev Aff G AB H HR BB SO BA OBP SLG OPS
MLB MLB MLB MLB   1941 6677 1575 442 608 1816 .236 .302 .478 .780
Mino Mino Mino Minors   185 661 183 43 81 180 .277 .357 .552 .909


参考文献・サイト

・「Rube Marquard: The Life and Times of a Baseball Hall of Famer」Larry D. Mansch著

・https://sabr.org/bioproj/person/69d56ecd

・http://www.agganisfoundation.com/bio/bio.html

・https://goterriers.com/sports/2016/6/13/hallfame-agganis-harry-html.aspx

・「Chicago Cubs: Where Have You Gone? Ernie Banks, Andy Pafko, Ferguson Jenkins
」Fred Mitchell著

・http://www.jfkrush.com/kingmanfan/index2.htm