1942年の「史上最高の野球選手は誰か?」投票

1942年のシーズン前、アメリカ最大の野球専門誌であったスポーティング・ニュース紙が102名のOB選手、監督経験者、野球関係者に対し「史上最高の選手は誰か?」と題した投票を行いました。

投票者に選ばれたOB選手にはウォルター・ジョンソン、トリス・スピーカー、ロジャース・ホーンスビー、エディ・コリンズ、ミッキー・カクレーンといった超が付くほどのレジェンド選手が名を連ね、監督経験者にもコニー・マックやケーシー・ステンゲルのような名監督が含まれるなど一流揃いとなっています。

そして、以下の表が総勢102人の投票結果。

得票数 選手名 引退年
60 タイ・カッブ 1928
17 ホーナス・ワグナー 1917
11 ベーブ・ルース 1935
2 ロス・ヤングズ 1926
ロジャース・ホーンスビー 1937
1 ジェリー・デニー 1894
エド・デラハンティ 1903
クリスティー・マシューソン 1916
ウォルター・ジョンソン 1927
トリス・スピーカー 1928
エディ・コリンズ 1930
ジョージ・シスラー 1930
ルー・ゲーリッグ 1939
メル・オット 1947
ジョー・ディマジオ 1951

過半数を超える60票を集めたタイ・カッブが栄えある第1位に。投票が行われたのが1942年ということもあり投票メンバーにカッブと同年代の選手等が多かったことがプラスに働いているのはず。ただ、カッブと同年代の選手(トリス・スピーカーやウォルター・ジョンソン)の中で3票以上を集めた選手は一人もおらず、カッブが当時どれだけ飛び抜けた扱いを受けていたか窺い知れますね。

2位はタイ・カッブ以前のNo.1プレーヤーであったホーナス・ワグナー。今でこそ史上最高の選手と評されるベーブ・ルースは引退から6年ほどしか経っておらず投票メンバーに同年代の選手が少なかったためか3位に終わっています。球界関係者の投票ではなくファン間投票であればトップだったでしょうが。

1~2票のメンバーに焦点を当てると、ロス・ヤングズがまず目に留まるはず。タイトルこそ獲得したことはないものの攻守に隔て順調なキャリアを歩んでいた途中、30歳で腎臓病によりこの世を去った悲劇の選手。人格者とも評された選手ですが、1915年以降のデビューした選手の中で唯一複数票を獲得。

また、投手に投じられたのは102票中たった2票(クリスティー・マシューソンとウォルター・ジョンソン)のみ。今の感覚ではサイ・ヤングに票が入っていないことが奇妙に思われるかもしれませんが、サイ・ヤングは史上初めて行われた1936年の殿堂入り投票でマシューソン(得票率90.7%)やジョンソン(得票率83.6%)を尻目に得票率49.1%しか獲得できず落選。流石に翌年度の投票で当選ラインぎりぎりの得票率76.1%を集め殿堂入りを果たしましたが、当時はマシューソンやジョンソンから一段階格の落ちる選手として扱われていました。

さらに、現役選手では当時NL最多本塁打記録保持者であった32歳のメル・オットとプライムタイムを迎えていたジョー・ディマジオが1票を獲得。


この投票は時代が時代なだけに手紙を用いた郵送形式で行われましたが、スポーティング・ニュースはアンケートに選手名だけでなく投票理由も記すように依頼していました。

以下は各選手の投票者の投票理由を抜粋したものです。

タイ・カッブ

・ウォルター・ジョンソン
「彼は全てにおいて他の選手よりも優れていた。常にいち早く対戦相手の弱点を見つけ出し利用した。」

・トリス・スピーカー
「彼は野球選手にとって必要な全ての要素を兼ね備え、常に競争心とヤル気に満ち溢れていた。」

コニー・マック
「私の知る限りでは彼は全ての選手を超えていた。」

アル・シモンズ
「今後彼のような選手は現れないだろう。」

・エディ・コリンズ
「明確だ(Obvious.)」

ビル・フリエル
「成績を見れば分かるだろ。」

カール・メイズ
「バント、ドラッグバント、打撃、走塁、守備の全てをこなし現代の多くの選手よりもスピードがあった。彼の判断は常に的確で絶対に諦めないファイターだった。パワーに関すればベーブ・ルースが史上最高かもしれないが、ルースは弱点が多い。」

フランク・コーリドン
「彼は魔術師だ。そして、ハードでタフでクリーンな選手だった。」

ミッキー・カクレーン
「偉大な選手になるための全ての要素を身に付けていた。」

ホーナス・ワグナー

ビル・マッケニー
「NL一筋でALの選手について知識不足だから、私のチョイスはNLのワグナーになる。彼がフィールドでミスを犯したところを見たことがない。」

フランク・チャンス
「タイ・カッブやトリス・スピーカーも素晴らしい選手だが、ワグナーが最も価値のある選手だったと思う。」

ベーブ・ルース

ウェイト・ホイト
「彼は天井知らず天賦の才能を持つだけでなく、それを発揮する能力も兼ね備えていた。」

・ホワイティ・ウィット
「彼は守備でほとんどミスを犯さなかったし、バッティングは言うまでもないだろう。」

ジミー・フォックス
「私が球界入りした時、カッブは落ち目だったがルースは全盛期を迎えていたからだ。」

ロジャース・ホーンスビー

カール・ハッベル
「彼には何度も苦しめられた。彼の走攻守に匹敵する選手がいたとは考えられない。」

ジョニー・クーニー
「彼は最高のバッターであっただけでなく最高のオールラウンドプレーヤーだった。」

ルー・ゲーリッグ

レフティー・ゴメス
「彼は優れたバッターであっただけでなく素晴らしいチームプレーヤーであり、決して休むことがなかった。」

ジョー・ディマジオ

スタン・ハック
「あと何年かすればディマジオはタイ・カッブやベーブ・ルースを過去の存在へ追いやるだろう。」