ヤンキー・スタジアムの球場特性の実状と誤解・偏見の訂正

ヤンキースをフォローしていると毎日のように目にする言葉があります。「ヤンキー・スタジアムは左打者有利だから左打者を補強しろ!」です。また、「ヤンキー・スタジアムは打高球場だからピッチャーは成績が低下して当然だ!」という意見も少なくはありません。

ヤンキー・スタジアムは素人が見ても分かるほど両翼と右中間が狭く、他球場でフライアウトになるような飛距離の打球がポンポンと長打になる姿を目の当たりにし続けていれば、これらのイメージがファンに刷り込まれるのも当然の話。

しかし、パークファクター(以下PF)等の統計的データを見れば、これらのイメージと実状との間に大きな乖離が存在していることに気付かされます。

本記事では「ヤンキー・スタジアムの球場特性の実状と誤解・偏見の訂正」と題して、ヤンキー・スタジアムの球場特性に対する簡単な考察を行い、同球場への誤ったイメージを正せればと。



1.ヤンキー・スタジアムは得点が入りやすいのか?

まず初めにパークファクターの基本である得点PFから見ていきましょう。

下記の表に主要サイトであるBaseball ReferenceFanGraphsBasebeall Savantの1年ごとの得点PF値を記載。
さらに、PFは年度ごとの分散が大きく複数年に渡る長期的な数値データを用いることが理想的であるため、各サイト独自の複数年版も合わせて表記しています。

ヤンキー・スタジアムと言えば投手有利だった旧球場から一転、新球場では2009年の開場直後からホームランが乱発しAL屈指の打高球場として多くのファンに強い印象を残していましたが、下記の得点PFを見て分かるように2010年代中盤から投手有利化が急速に進行。今では平均未満まで得点PFが低下しています。

表記の主要3サイトだけでなく、記事最下部リンクの各サイトの値でも軒並み同じような傾向を示しており、現状としてヤンキー・スタジアムが得点が入りやすい球場であるという統計的根拠は存在せず。

ヤンキー・スタジアムの得点PF(単年度バージョン)

年度 Baseball Reference FanGraphs Basebeall Savant
2021 100 99 98
2020 97 107 106
2019 89 91 86
2018 103 100 112
2017 102 101 102
2016 105 102 102

ヤンキー・スタジアムの得点PF(複数年バージョン)

年度 Baseball Reference
(3か年平均)
FanGraphs
(5か年加重平均)
Basebeall Savant
(3か年平均)
2021 99 99 96
2020 96 99 106
2019 96 99 104
2018 98 100 106
2017 103 101 106
2016 102 102 102

当然ながらフェンスまでの距離が近いためにホームランが出やすい球場であることは本塁打PFを見ても明らかですが、野球という複雑なスポーツにおいて得点等の期待値に対する球場の影響は非常に複合的なもの。「球場が狭い→ホームランが出やすい→得点が入りやすい(打者の成績が伸びやすい)」という短絡的な解釈によりヤンキー・スタジアムでプレーする選手のパフォーマンスを評価すると痛い目に遭います。

例えば、ヤンキー・スタジアムのようにフェンスが近くフィールドが狭い球場は単純にホームランこそ増えるものの、外野手のカバーすべき範囲が小さく前進守備等が可能となったり、外野手が打球に追いつくまでの距離(時間)が短くなりランナーの走塁余裕時間が短縮されてしまったりと、得点に対するマイナスの影響も顕在。実際にヤンキー・スタジアムは二塁打や三塁打のPFが最低クラス。

ちなみに、ヤンキー・スタジアムと同じような傾向を示している球場にはホワイトソックス本拠地ギャランティード・レイト・フィールド東京ドームホームランテラス設置後のペイペドームなどがありますね。

また、得点PFなどの相対的な球場特性は「ルールの変更」、「公式球の仕様」、「フライボール・レボリューションや極端なシフト、高めのフォーシーム増加など球界の様々なトレンドの変化」、「新球場の開場」など外的要因によって左右される水物。

如何なるファクターが影響してヤンキー・スタジアムの球場特性が大きく変化しているのか馬鹿な私には分かりませんが、打高球場という過去のイメージは捨て去るべきでしょう。

ただ、2021年シーズンにおいてMLB機構は「飛距離が伸びやすい旧仕様ボール」と「飛距離が抑えられた新仕様ボール」の2種類の公式球を使い分けていましたが、ヤンキー・スタジアムでは新仕様の公式球が優先して配布・使用されていたという疑惑があり、同シーズンのPFが不公平な値である可能性には留意してください。

(ヤンキースがヤンキー・スタジアムでサイン盗み等の不正行為を行っていたことの影響は知らん。)

2.左打者に有利な球場なのか?

ヤンキー・スタジアムはフェンス迄95.7m・左中間121.6mのレフトと比べ、ライトがフェンス迄96.9m・左中間117.3mと圧倒的に狭く、一般的に左打者有利の球場として広く知られています。そのためか、「他球団の左打者がヤンキー・スタジアムでプレーすれば単純に成績が向上するであろう」という憶測から、ヤンキースの補強論を語るファンが大半を占めていますよね。

しかしながら、Basebeall Savantに掲載されている「右打者・左打者ごとのwOBAconの3か年平均PF」をグラフに落としてみると、開場以来ほぼ変動がない右打者の値とは対照的に、左打者の値が明らかな右肩下がりのトレンドを示しており、2010年代後半からは右打者と左打者の間で大きな差はなし。むしろ、最新の2021年の値に至っては左打者の値が右打者を下回るどころかMLB平均すら割っています。

PFの算出方法が比較的に簡易なBasebeall Savantだけでなく高精度なBaseball ProspectusのPFにおいても同じような傾向が示されており、統計上ヤンキー・スタジアムが左打者全般に有利であるとは言えないのが現状。

上述したような得点PFの低下もこのような左打者の不利化が要因となっているのかもしれません。

ただ、このような傾向を示しているのは左打者全般の話であって、フライ系やゴロ系、パワーヒッターやギャップヒッター、プルヒッターやスプレーヒッター、走塁能力の大小などバッターのタイプによっても変わってくるはず。

私がアクセスし得るPFなどの指標を基に本記事を執筆していますが、高度なアナリティクスを有するヤンキースがより詳細な打球データ等の収集分析により、本当にヤンキー・スタジアムに適した左打者を抽出していることは言うまでもありません。

3.環境条件による飛距離の変化

打球の飛距離がボールの仕様だけでなく球場の環境条件に左右されることは周知の事実。

そこでBaseball Sanvantは気温、海抜、屋根の有無、湿度、風向風速など環境条件の影響による「打球角24~32°、打球速度90マイル以上、引張方向の打球」の飛距離変化を算出しており、下記の表にヤンキー・スタジアムの値とMLB全30球場の中での順位を記載。

4~6月に試合が行われなかった2020年を除き、飛距離変化値は最下位層で推移しており、ヤンキー・スタジアムの環境条件が投手有利であることが分かるかと。

さらに、Baseball Sanvantと同様に環境条件を要因とした飛距離変化はBallpark Palも算出していますが、同サイトはヤンキー・スタジアムが全30球場中29番目に打球の飛距離(打球角32°、打球初速度103マイル)が伸びやすい球場と結論付けています。

つまり、ヤンキー・スタジアムではフェンス際のホームランに対して「他球場であればスタンドインしていなかった」と言われることも多々ありますが、フライ打球に対し逆説的に「他球場であればもっと飛距離が伸びていた」とも言えるわけで、この点を肝に銘じヤンキー・スタジアムでの選手のパフォーマンスを論じるべきでしょう。

年度 飛距離変化
( ± m)
MLB内順位
(30球場)
2021 -1.7 m 28位
2020 -0.3 m 18位
2019 -1.7 m 28位
2018 -1.0 m 26位
2017 -1.1 m 24位
2016 -0.6 m 19位

4.最後に...

記事前半に「相対的な球場特性は水物」と記しましたが、MLBでは公式球の仕様変更が無理やりながらも進められており、フライボールレボリューションやスピンレイト重視など打者や投手のトレンドも次のフェーズへ移行しようとしています。

今後、これら外的要因の変化によってヤンキー・スタジアムが再び打高球場に戻る可能性もあれば、反対に投高球場化が更に進む可能性もゼロではないわけで、球場特性の変化を柔軟に捉え続けることが必要。

もちろん、大きなサンプルサイズが必要となるPFの変化が、外的要因によって引き起こされたものではなく、”開場~2010年代前半”と”2010年代後半~現在”の対照的な傾向のどちらか一方、もしくは両方ともが単なる偶然である可能性も否定はできません。

本記事の投稿に至るまで

各種サイトのパークファクター

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