やり投げ元世界記録保持者の103マイル(とヤン・ゼレズニー)

意外にも投擲のスキルが求められるスポーツは限られています。

その中で最も歴史ある競技がやり投げ、最も金になる競技が野球(ピッチング)であるわけですが、自称Fireballerマニアの自己顕示欲を満たすため、今回はやり投げ元世界記録保持者の豪速球エピソードを取り上げたいと思います。



まず本題へ入る前に、”元世界記録保持者”ではなく”現世界記録保持者”による有名な野球エピソードをおさらいしておきましょう。

Jan Zelezny

チェコのやり投げ選手Jan Zeleznyは98.48mの世界記録を始め前人未到の記録を数々残すなど圧倒的な傑出度を誇り、同競技のGOATのコンセンサスと考えられているアスリートですが、野球界では1996年にATLのトライアウト(正確にはテスト)を受けたことで有名かと思います。

これは当時ATLの国際スカウト部長を務めていた名スカウトBill Clarkが1995年にプラハに滞在していた際(恐らくプラハ・ベースボールウィークのスカウティング)、Zelezny本人が野球のテストを受けたいとClarkへアプローチした結果、1996年アトランタ五輪の訪米に合わせる形で実現したもの。

テスト開催日はZeleznyが金メダルを獲得した僅か4日後。

物珍しいイベントだったためか40人もの報道関係者とJohn Schuerholz GMやLeo Mazzone投手コーチ、Paul Snyderスカウト部長、Greg MudduxといったATL関係者がAtlanta–Fulton County Stadiumに集結し、Zeleznyによる約25分間のブルペンセッションを見守りました。

(約40人の報道関係者には日本人カメラマンも含まれていたようなので、野球記者だけではなくオリンピックの取材班も参加していたと考えられる。)

一般的にこのテストで85 mphを計測したと言われていますが、これは飽くまでもPaul Snyderの目測による推定球速。そもそもSnyderは”推定85 mph”と言い切ったわけでなく、”推定80~85 mph”と含みを持たせており、そのレンジの最大値が独り歩きした感じ。

さらに、当時のAP通信の報道では推定Mid-70s mphと全く異なるレンジが提示されていて、Bill Clarkは2年前のMLB.comに対するインタビューで85~86 mphと発言。

結局のところZeleznyがどれほどのスピードを叩き出していたのかは不明なわけです。

金メダリストによる折角の機会だったのだから、スピードガン用意すればよかったのにね。

また、この珍事についてZeleznyが野球知識ゼロの全くのド素人と勘違いされることが多いのですが、前述したように(強肩を他の分野で活かせないかと考えた)Zelezny本人が希望したテストであり、野球試合を視聴した経験は勿論のこと、訪米前にチェコ国内で2度のトレーニングも行っています。

だから、野球について右も左も分からないような金メダリストがおふざけ企画に担ぎされたといった話ではありませんし、この際にATLは1997年Spring Trainingへの招待をオファー。

Zeleznyも再び訪米しSpring Trainingへ参加する意向を示していました。

(しかしながら、このテストで腕を痛め本職に支障が生じたため野球挑戦を諦めた模様。)

ちなみに、25分間のセッションの最後にマウンドが位置するRFのファールラインから遠投を行い、Atlanta–Fulton County Stadiumの左中間スタンドへボールを運びました。

AP通信の報道では投擲距離=推定約275 feet(83.8 m)と記されているのですが、私が同球場の図面上で確認した限りでは330~350 feet(100.5~106.7m)程度が真値に近しいかと思います。

また、当時の報道では”フェンスを越えた”としか記されていませんが、Bill Clarkは前述のインタビューにて遠投がアッパーデックまで到達したと証言していて、それが正しければ375~395 feet(114.3~120.4m)程度となります。

球速といい遠投距離といい、何を信じるかはあなた次第。


そしてお次は、当記事の本題であるやり投げ元世界記録保持者のTom Petranoffについて。

Tom Petranoff

アメリカ出身のTom Petranoffは旧式ルール時代のやり投げ競技で活躍したアスリートであり、1984年に東ドイツのUwe Hohnが(恐らくドーピングの力を借り)人類で初めて100m台の大台に到達(104.8m)するまで世界記録(99.72m)を保持していた人物。

世界記録を更新したのは1983年のことで、同年には世界陸上で銀メダルを獲得しています。

Zeleznyと対照的にPetranoffは幼少期から野球をプレーしており、大学時代1年目(1976~77年)の途中まで野球とアメフトを両立していたものの、学年途中にカリフォルニア州サンディエゴ近郊のパロマー大学へ転校する際にやり投げと出会い、同競技へ転向した遅咲き。

やり投げ転向後もトレーニングにピッチング練習を組み込んでいたとのことですが、その際にSDPのスカウトのレーダーガンで100 mph前後を幾度も計測し、自己ベストとしてMax 103 mphを叩き出したと主張しており、1986年にはSDPからMiLB契約をオファーされたとも話しています。

ただ、この話は所詮Petranoffの一方的な言い分であって、本当に彼が103 mphもの豪速球を投じることができた可能性はほぼゼロ。

そもそも、103 mphという計測記録は疎か、Petranoffの球速を測定したというエピソードすら彼の証言を除けば何処にも見当たりません。

Petranoffと同時代におけるトップティアのFireballer(J.R. RichardRich GossageLee Smith)の球速の真値が103 mphに達していたとは考えられず、Fireballerとして史上最高の傑出度を誇るNolan Ryanですら可能性は非常に低いでしょう。

また、SDPからMiLB契約オファーを受けたと主張している1986年にPetranoffは本当に野球転向を考えていたようで、Los Angeles Times(2月と5月)に野球転向を真剣に検討している旨の記事が掲載されているのですが、後者の5月の記事に「2年半前に97 mphを計測した。」との本人のコメントが。

本当に103 mphを計測していたのであれば、Los Angeles Timesほどの有名紙のインタビューで6 mphも低い値を述べるでしょうか?

103 mphの計測が1986年5月以降だった可能性も否定できませんが、やはり後年になって尾ひれを付けちゃったんじゃないですかね。

そもそも、97 mphですら本当の話か何の裏付けもありませんし、万が一にレーダーガンに103 mphが表示されたことが事実だったとしても、この時代のガンはデタラメな代物も沢山ありますから、計測されたという事実が存在したところで…。

ちなみに、「MLB・日本プロ野球の歴代球速ランキング(歴代最速投手ランキング)」にはピンク記録として掲載しています。

私のリストのピンク記録の信憑性なんて所詮この程度です。


ゲルマン人の可能性

私は中学時代にやり投げに少しハマっていた時期があって、その頃はノルウェーのトルキドルセン(Andreas Thorkildsen)とフィンランドのピトカマキ(Tero Pitkämäki)の2強時代でした。

また、この2強時代が終了するとThomas RöhlerJohannes Vettertといったドイツ人が幅を活躍を見せており、そう言えば旧ルール世界記録保持者のUwe Hohnもドイツ出身。

さらに、Jan Zeleznyもスラブ圏とゲルマン圏の境にあるチェコの出身。

このようにやり投げの世界ではゲルマン系民族が幅を利かせている印象です。

よくUsain BoltMichael Phelpsを人類最速だとか、Lionel Messiを世界最高のプレーヤーだとか言いますが、彼らは飽くまでもその競技にパティシペントした人間の中でNo.1なだけであって、本当に人類の中で最も優れた人間であるかは分かりません。

野球だって同じです。

人類史上最も速く野球ボールを投げたのはAroldis ChapmanBen JoyceJacob Misiorowskiの何れかでしょうが、所詮は野球が一般的に行われている一部国と地域の中でピッチャーの道を選んだごく一部の人間の中で最速を誇っているだけ。

そして、中東欧や北欧にはChapmanらを凌駕する強肩が眠っているのかもしれません...

(やり投げだって世界記録が30年も更新されていないマイナースポーツですけどね。)

フィンランドのペサパッロ

...と兼ねてから考えていたのですが、今週にRedditで興味ある話題を見つけました。

フィンランドの競技ペサパッロのLuka Raesmaaの動画です。(東西対抗戦≒オールスターに選ばれるクラスのプレーヤーであり、2年前に来日してDeNAの秋季練習へ参加した模様。)

先週の東西対抗戦でスローイングの球速を計測するイベントが行われた際の映像ですが、助走付きの全力投球で170.4 km(105.9 mph)を計測。

野球ではトレーニングセンターで行われているようなプルダウン送球でCasey Weathersが107.8 mph、Statcastの外野送球でBrendon Doyleが105.7 mphを叩き出しており、通常の野球ボール(5~5.25 oz)より軽い4 ozボールであれば110 mph、3 ozボールであれば115 mphをに達しますが、ペサパッロのボールは5.6~5.8 ozとのこと。

野球ボールと比べ約0.5 ozも重いボールでの105.9 mphはかなり印象的な数字ではないでしょうか。

だから何だっていう話ですけど。

本音を言わせてもらうと、本来はこの話を取り上げたかっただけなのですが、Redditで拾ったネタをそのままブログに回すのが恥ずかしかったので、やり投げを本題に見せかけただけです。

コメント

  1. 匿名 より:

    管理人さんってまだ30代中盤なんですか?
    勝手に40中盤から50辺りだと思っていましたが、30中盤なら情報量が化け物すぎる

    やはりハーバード卒、インプットの鬼

  2. 匿名 より:

    は!?!?!?!?!?

    情報量の割になんか若い感じあるよな〜、30後半なのかなあと思っていましたが、まさかの30!?!?!?!?

  3. 匿名 より:

    30??????? アウトプットうますぎるやろ。
    営業職ですか?