1941年は野球の史上最もアイコニックなシーズンの1つでした。
その理由は、前人未到の56試合連続安打記録を樹立したJoe DiMaggioと最後の.400 AvgバッターTed WilliamsがシーズンMVPを争ったため。
前年にデビュー後初めてWS優勝を逃すも一昨年にMVPを獲得済みだった26歳のスーパースターJoe DiMaggioとデビュー3年目・若干22歳ながらも.406 Avgに加えHRのタイトルも獲得したWilliamsの何れを”More Valuable”と見做すべきか、当時の報道を見る限りかなり意見が分かれていたようですが、残念ながらチーム成績を重視する悪しき風潮は既に蔓延済み。
結局、84勝70敗(AL2位)のBOSに対し17ゲーム差を付けたNYY(101勝53敗)が独走優勝を果たし、MVP投票でもNYYを牽引したDiMaggioが15/24の1位票を獲得し2度目の受賞を果たしました
1941年 AL MVP 投票結果
| Name | Points | 1st | 2nd | 3rd |
| Joe DiMaggio | 291 | 15 | 9 | ー |
| Ted Williams | 254 | 8 | 14 | 2 |
しかしながら、その後も何れがディザーバーに相応しかったか長らく議論の的となっており、数多くの偉大なるバッターが.400 Avgの壁に阻まれるに連れてWilliamsを推す声が強まってきたことは想像に難くありません。
(また、その意見を正当化するため当時のWilliamsとライターの対立を過剰に捉えるファンも増加。)
そして、その風潮に大きな追い風となったのがWARの台頭でしょう。
Joe DiMaggio vs Ted Williams
| Name | rWAR | fWAR | G | PA | HR | Rbat+ | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Joe DiMaggio | 9.3 | 9.7 | 139 | 622 | 30 | .357 | .440 | .643 | 1.083 | 188 |
| Ted Williams | 10.4 | 11.0 | 143 | 606 | 37 | .406 | .553 | .735 | 1.287 | 242 |
これまでDiMaggioとWilliamsの比較において、DiMaggioの優れた守備走塁とWilliamsの鈍足拙守の差がバッティングのギャップを埋めるに十分であるか否かが争点となってきたわけですが、走攻守をリーズナブルなアプローチによって評価するWARがその答えを提示する形に。
Who would you have picked as the 1941 AL MVP?
— Codify (@CodifyBaseball) June 14, 2024
rWARとfWARの両方で1.0 WAR以上の差があると言われれば、Williams>DiMaggioと考えるのは自然な反応。
しかし、rWARとfWARで示されているバリューは本当に正しいのでしょうか?
今回の本題はその点について。
WAR2.0
rWARとfWARに対するカウンタースタッツとして今回提示したいのはSean SmithのWAR2.0。
(Sean Smithがどの様ような人物であるか、WAR2.0が如何なるスタッツであるかは詳しく説明しません。勝手に調べてください。)
Sean SmithはrWARをアーキテクトした人間の1人(一部コンポーネントの作り手としてfWARにも深く関係している)なので、WAR2.0はrWARの修正版のような形になりますが、1941年シーズンにおけるDiMaggioとWilliamsのWAR2.0、そして各コンポーネント値が下表の通り。
RAAはBat、Run(BsR)、Fieldの走攻守得点指標の合計にポジション補正値を加減した値。
WAR2.0はRAAに出場機会補正(リプレイスメントレベル補正と同義)をリーグ補正を加えRuns Per Win(RPW)によって得点→勝利換算を行った値。
WAR2.0 コンポーネント
| Name | Bat | Run | Field | RAA | WAR2.0 |
| Joe DiMaggio | 64 | 8 | 20 | 90 | 10.9 |
| Ted Williams | 94 | 1 | -11 | 78 | 8.9 |
*Bat = Adjusted Batting Runs + RISP Runs + ROE Runs
*Run = Baserunning Runs + DP Runs
*Field = Fielding Runs
どうですか?面白い結果だと思いませんか?
rWARとfWARではWilliamsに差を付けられたDiMaggioですが、WAR2.0では反対に2.0 WARもの大差をつけ圧勝。
DiMaggioのMVP受賞が正当であった可能性が示唆されています。
しかし、同じWARでも何故このような差が生まれたのでしょうか。
コンポーネントを見れば何となくわかると思いますけど、その最大の要因は守備成績です。
WARとfWARで採用されている守備指標TZRではDiMaggioが+8、Williamsが-3。
DiMaggioは現役時代に球界屈指の好守と評されていましたが、TZRでは通算+49、シーズンハイ+11と中の上~上の下の評価となっています。
しかし、WAR2.0においてDiMaggioはデビューから従軍するまでの期間(1936~1942年)に+93のField Runsを稼ぎ出しており、これは同じくCFの名手であった兄弟のDom DiMaggioやVince DiMaggio、同世代NL最高のCF守備を誇ったTerry Mooreらを上回る最高水準の値。
1941年シーズンの+20も単なる上振れではありません。
ただ、反対に拙守で有名だったWilliamsはイメージ通りのマイナス値となっていますが、1939年のデビューから30歳となる1949年まで従軍期間を挟み+12→-4→-11→+8→+14→-1→+4→±0で推移しており、1941年シーズンの-11は下振れだった可能性が高いでしょう。
Fielding Runsの31点差にポジション補正値(CFは-2、LFは-6)の4点差とBsRの7点差を加えると約42点(約4 WAR)差。
Pete Crow-ArmstrongとNick Castellanosぐらいのギャップですね。
ちなみに、TZRはSean Smithが考案した守備指標です。
つまりWAR2.0のFielding RunsはTZRの改良版となるわけで、普通に考えれば前者の方が精度が高いだろうと推測されますが、実際のところはよく分かりません。
この2人が特殊な球場でプレーしていたのも頭を悩ませる点です。
DiMaggioは左中間にDeath Valleyを有するYankee StadiumのCF、WilliamsはGreen Monsterがそびえ立つLFを守っていました。
Sean SmithはWAR2.0を公表した際に出版した著書「WAR in PIECES」でもこの点に触れており、Fielding Runsを算出するに当たっては守備版Park Factorを設けることで球場補正を行っていますが、それでもPlay By Playをベースに守備パフォーマンスを評価するには限界があるでしょうね。
他にはBsRにも違いが。
WAR2.0とrWARでは同様の傾向を示していますが、fWARではDiMaggioが-0.6、Williamsが-2.1。
これはfWARが間違ってるんじゃないですか、たぶん。
この時代は盗塁が軽視されていたことでSBAが非常に少なく、DiMaggioのような優れたランナーが点数を稼ぎにくい環境であったことも頭に留めておくべき。
また、WARについて最低限の知識を持つ人間が上表を見れば、12 RAAしか差がないにもかかわらず2.0 WARものギャップが生まれていることに違和感を感じることでしょう。
これはSean Smithが所属チームの得失点からRPWを算出したため。
Sean SmithはBill JamesのWin Sharesに影響され、通常のWARのようにリプレイスメントレベルを基準として余剰勝利数(現在なら1000 Wins)をチーム成績関係なく全プレーヤーに分配する形ではなく、実際のチームの成績と所属プレーヤーのWARを合致させるアプローチを採用しています。
そして、1941年シーズンのNYYはBOSより得点も失点も少ないチームでした。
つまり、Sean SmithのアプローチにではBOSにとっての1点よりNYYにとっての1点のほうが価値が高くなり、”NYYのRPW”<”BOSのRPW”となります。(DiMaggioのRPWは9.93、WilliamsのRPWは10.65)
Win SharesとWARのアプローチの何れが正しいのか、セイバーメトリクス界隈では度々論争が巻き起こっており、何年か前にはBill JamesとTom Tangoがネット上で公に喧嘩したこともあったほど。
どちらかと言えば私は後者を支持していますが、WAR2.0を扱うに当たりこのカラクリを頭に入れてくことは必須かと。
ちなみに、Bill JamesのWin Sharesでは、DiMaggioが41.2(36.0 Hitting、5.2 Fielding)、Williamsが41.9(39.6 Hitting、2.3 Fielding)と互角になっています。
終わりに
投手WARにおけるRA9⇔FIP、守備におけるDRS⇔UZR(現在ならFRV)などの違いが取り沙汰されることが多いrWARとfWAR。
Baseball Referenceのサイトの性質上、基本的にrWARは過去のプレーヤーのバリューを評価することに重きが置かれており、時代背景を反映した補正を盛り込みがち。
FanGraphsはfWARにおいて逆の立場を取っており、フレーミングの考慮の有無も両サイトの方針の違いが生み出した産物と言えるでしょう。
しかし、最近は(私を含め)ファンが自らの意見を押し通すため、rWARとfWARを都合よく取捨選択する場面が増えように感じます。
また、Baseball ReferenceがHead-to-Head Stats Comparisonを導入したことで、先に引用したような安直なコンプが世に溢れ、ファンが考え無しに答えへ飛びつくようになりました。
— Fordy Ballgame (@ironhorse0619) December 17, 2024
でも、Tom Tangoは自らのブログで幾度となく自虐的にWARの改善案を提示してきましたし、Sean Smithが重い腰を上げ約15年ぶりにWARをリメイクしたらこのザマです。
WARなんてこんなものなんですよね。
同じようなフレームワークでアーキテクトされていても、コンポーネントやアプローチが異なれば、そこから導き出されるバリューに大きな差が生まれますし、rWARもfWARも所詮は何種類も存在するWARの1つでしかありません。
(そのWARだって何種類も存在する総合指標の1つですよね。)
基本的にフレームワークは正しいと思いますし、非常に便利な指標ですが、作り手側の意図も理解したうえで利用すべきではないでしょうか。
本当ならコンポーネントの中身も把握すべきだとか偉そうなこと言いたいところですけど、算出方法を把握していないコンポーネントなんて山ほどあるので…。
ちなみに、私は「歴代野球選手ランキング Top 200」を作成する際、総合指標についてはrWARとfWARに加えWAR2.0やGrid WARも考慮しています。
Grid WARについても近いうちに取り上げますね。
オマケ:Joe DiMaggioとYankee Stadium
今回の記事の本題から逸れた話になりますが、左中間にDeath Valleyを有するYankee StadiumはRHBに不利な球場でした。
RHBのパワーヒッターであるDiMaggioがその影響を受けないはずもなく、実際に極端なHome/Away成績を記録しています。
Joe DiMaggioの通算成績
| HR | AVG | OBP | SLG | OPS | BABIP | |
| Home | 148 | .315 | .391 | .547 | .938 | .299 |
| Away | 213 | .334 | .405 | .611 | 1.016 | .310 |
そして、DiMaggioは2年前の1939年シーズンに.381 Avgのキャリアハイを残しましたが、Yankee Stadiumの影響は更に色濃く出ており、Away成績は1941年シーズンのTed Williamdsと大差ありません。
Joe DiMaggioの1939年シーズン
| HR | AVG | OBP | SLG | OPS | BABIP | |
| Home | 12 | .350 | .405 | .578 | .983 | .327 |
| Away | 18 | .413 | .484 | .769 | 1.253 | .379 |
それこそ、Green MonsterがLFにそびえ立つFenway Parkを本拠地にプレーしていれば、DiMaggioは.400 Avgを記録する最後のRHBだったかも。
Bobby DoerrやJoe Cronin、Jimmie Foxxなど同時代にBOSでプレーしたRHBのHome/Away成績を確認してもらえば、どれだけGreen MonsterがRHBに恩恵をもたらしていたかよく分かるかと思います。
また、WilliamdsもLHBとはいえヒッターズパークであるFenway Parkの恩恵を受けており、DiMaggioとWilliamsのキャリアが重複した1939~1951年の成績を見てみると…、
1939~1951年シーズン
| HR | AVG | OBP | SLG | OPS | BABIP | |
| Joe DiMaggio(7672 PA) | ||||||
| Home | 106 | .308 | .389 | .529 | .918 | .291 |
| Away | 148 | .336 | .418 | .605 | 1.023 | .315 |
| Ted Williamds(6439 PA) | ||||||
| Home | 158 | .364 | .496 | .659 | 1.155 | .352 |
| Away | 165 | .329 | .470 | .607 | 1.076 | .313 |
1.023 OPSで俊足好守のCF、1.076 OPSで鈍足拙守のLF、名前を伏せたまま両方を提示されればどちらの肩を持ちたいですか?
私なら前者を選ぶでしょう。
今では1941年シーズンに限らずプライムタイムやキャリア全体を比べてもTed Williamds>Joe DiMaggioの評価が一般的となっていますが、思っているほど2人の実力とバリューに差はなかったのかもしれません。
もちろんロンジェビティには大きな差がありますが…。
コメント
管理人は東大卒
駅弁大卒
WARといえば
Nolan Ryanの通算投球WARは
rWARだと83.6
fWARは106.7
WAR2.0は76.5
Grid WARは96.5と
各WARの数値に大きなバラつきがありますが
これってfWARの方はRyanの価値を過大評価しているってことでしょうか
いずれにせよ、Ryanが非常に極端な投手であったことを示す一つの統計ではあるかと
実はRyanを例にGWARを取り上げる予定なので詳しい点を省きますが、ERA-FIPとBB%にはある程度の比例関係が存在します。
つまり、コントロールが悪いピッチャーはFIPで見込まれるより高いERAを残す傾向があります。
Ryanはその最たる例かもしれません。
特に無いです。