今ではアメリカ第3のスポーツに落ち着いた”Base Ball”ですが、アメリカ社会を象徴する娯楽として長らく文学界において大きな位置を占め、Walt WhitmanやErnest Hemingwayなど野球愛好家の文豪も少なくありませんでした。
また、長い歴史と特色ある競技体系、そして野球ファンの飽くなきレコードと知識への執着は、一般的なスポーツでよく見られるような伝記や回顧録等のノンフィクション作品だけでなく、レコードブックを始めとするリファレンスブックやコレクターズガイド、ハンドブック、クイズブック、はたまは数学やプログラミングの専門書まで多種多様な作品を生み出し、唯一無二と呼べるようライブラリーが今日までに形成されました。
そういった中で高い影響力やクオリティ、社会的意義を有する”名著”が幾つも誕生してきたわけですが、もし仮に野球を題材とした書籍(以下、野球本)の名著10選、つまり「The 10 Greatest Baseball Books」を客観的に選ぶとすれば、下記のようなリストになるのかなと。
- America’s National Game(1911:Al Spalding)
- You Know Me Al(1916:Ring Lardner)
- The Glory of Their Times(1966:Lawrence Ritter)
- The Baseball Encyclopedia(1969:David Neft etc.)
- Ball Four(1970:Jim Bouton)
- The Boys of Summer(1972:Roger Kahn)
- The Hidden Game of Baseball(1984:John Thorn & Pete Palmer)
- The New Bill James Historical Baseball Abstract(1998:Bill James)
- Moneyball(2003:Michael Lewis)
- The Book(2006:Tom Tango etc.)
アメリカの野球マニアなら当然の如く目を通しているであろう有名作品ばかりですか、私が知る限りこの中で和訳書が出版されているのは赤字で示した「You Know Me Al」「Ball Four」「Moneyball」の3作のみ。
その上、初めの2作品は絶版となっており(「You Know Me Al」は電子書籍限定で復活)、当代きっての経済ジャーナリストによる一般大衆向け作品「Moneyball」のみが人気を博している現状。
ニワカ映画ファンの私としては、「2001: A Space Odyssey」や「The Godfather」といった作品が様々なプラットフォームで視聴可能にもかかわらず、「Ordet」や「Persona」、「Close-Up」といった歴史的傑作へ容易にアクセスできない映画界が連想されます。
(映画や野球本に限らず大抵のジャンルがこういった現状に陥っていますけどね。)
まあ、こういった経緯によってアメリカと日本で野球本に対する認識が大きく異なるわけですが、上記リストの作品を始めとする数々の野球本の中で、一般的に最高傑作と見做されているのが「The Glory of Their Times」です。

「The Glory of Their Times」は、1961年のTy Cobb死去を契機に著者Lawrence Ritterが全米に住むDead Ball EraのOBプレーヤー(Live Ball Eraのプレーヤーも一部含まれる)へ直接インタビューを行い、その内容を書籍にまとめたのもの。
Paul WanerやSam CrawfordといったHOFer、Goose GoslinやHarry Hoopeといった本書籍の影響によりHOF入りしたと言われるプレーヤーなど総勢22名(後の増補改訂版で4名追加)のインタビューの抜粋が掲載されており、スポーツジャーナリズムに多大な影響を与えた偉大なる野球本として球史に名を残す傑作です。
(古き良き?)Dead Ball Eraを戦い抜いたオールドガイの赤裸々な証言を通して、現代とは全く異なる世界であった当時の球界の生き生きと姿が描写されており、私のような極東に住む世間知らずのゆとり世代人間でもノスタルジアを感じざるを得ない見事な内容で、スポーツ界のオーラルヒストリーにおける金字塔と言っても過言ではないでしょう。
ただ、言うまでもなくインタビュー受けたOBプレーヤーの殆どは老害。
「昔の球界は良かった」「現在の球界はダメだ」といった内容が腐るほど出てきます。
私の記憶が正しければ、出版当時の球界や現役プレーヤー、その競技レベルなどにポジティブな意見を投げかける人物はたった一人しかいなかったはず。
中には老害どころか虚言癖の人物も混ざっていて、一部のエピソードの信憑性には疑問符が投げ掛けられています。
しかし、Ritterの巧みな編纂によって、そういった証言に嫌悪感が生じることなく、寧ろ微笑ましささえ感じてしまうほどで、そういった点も本書籍の大きな強みと言えるでしょう。
また、一人当たり15ページ前後でまとめられているためサクッと読めます。
私は職場の昼休みに1日×1名のペースで読み進めました。
※P.S.※
和訳書が出版されていないと言っても、翻訳技術の発達によってそこら辺の垣根は何れ取り除かれるはずで、実際にAIの急速な進化によって加速化しています。
このままトークン消費コストがダウンすれば、近いうちに個人使用のレベルで安価に電子書籍データをAIで全文自動翻訳できるようになるでしょう。
そして、前述したような状況も改善されるだろう…と、本記事執筆前は思っていました。
ただ、よくよく考えればAIタイパ時代にわざわざ数百ページの古臭い野球本を読む人間が何人いるのかと。
もし仮に内容に興味を持つ人間がいたとしても、どうせAIで数千字程度に要約した内容をインプットして終わりですよね。
※10選の補足※
- 本来ならRoger Angellの「The Summer Game」を加えるべきかもしれませんが、The New Yorkerに掲載されたエッセイをまとめた作品となるためリストの対象外としました。そんなこと言ったら「You Know Me Al」だって同様かもしれませんけど…。
- Bill Jamesの偉大な、偉大な「Baseball Abstract」や「Baseball Analyst」は形態が書籍というよりマガジンに近しいため対象外に。
- Babe RuthやJoe Dimaggio、Sandy Koufaxなどの伝記も有名ですが、伝記作品を名著と捉えるには抵抗があります。
- スタッツブックである「The Baseball Encyclopedia」やオンライン活動の延長線上に位置する「The Book」も対象外とすべきだったかもしれません。
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