トリス・スピーカーの再考


1941年シーズンにMVPを争ったジョー・ディマジオとテッド・ウィリアムズについて。

「WAR in PIECES」の出版と並行する形で2024年にSean Smithが公表したWAR2.0。

当初は1917年シーズン以降を算出対象としていましたが、Retrosheetの整備に合わせ対象シーズンを拡大し(遡っ)ており、この8月には1908~09年シーズンが追加されました。

その中で当初から私が気に掛けているプレーヤーが1人存在します。

本記事の主題となるTris Speakerです。



Tris Speaker vs. Cobb/Ruth

2番手止まりだった男?

20世紀第1四半世紀における球界屈指の実力者として活躍したSpeakerですが、2歳年上のTy Cobbと7歳年下のBabe Ruthという二大巨頭の2番手に甘んじるなど不遇なキャリアを送ったプレーヤーといった印象も。

実際に現役当時や引退後の評価を見ると...

  • 1931年のGOAT投票では1位のCobb、3位のRuth(まだ現役途中だった)に対し、Speakerは8位。
  • 1942年のGOAT投票では1位のCobb、3位のRuthに対し、Speakerは6位タイ。(1票のみを獲得した他9名が同順位に並んだ。)
  • 1950年のGOAT Athletes投票では2位のCobb、4位のRuthに対し、Speakerはポイント(1~3位票)を得られず。(Mickey CochraneやCarl Hubbell、Rube Waddellですらポイントを獲得。)

といった結果となっており、やはり最高峰のプレーヤーとは見做されていなかった雰囲気。

また、CobbとRuthは1936年の初年度HOFメンバーに選ばれていますが、SpeakerはCy Young&Nap Lajoieと共に次年度にHOF入り(得票率はLajoie>Speaker>Youngの順)を果たしていることからも、SpeakerがCobb/Ruthより1つ下のティアに属する扱いだったことが窺い知れます。

ただ、史上最高クラスと評されるCF守備の名手だったこともあり、野手としての総合能力はCobbとBabe Ruthを上回ると考える同世代の野球人も少なからず存在。

1914年シーズンにはCobbを上回りMLB最高年俸を手にしていました。

しかしながら、3人の総合指標(野手bWARとWS)を比べてみると...

bWAR(Full Career)

Name Bat Run Field RAA WAR2.0
Babe Ruth 1,327 -9 79 1,320 162.3
Ty Cobb 995 38 0 937 149.8
Tris Speaker 824 13 92 858 136.1

*Run = Runs For Baserunning Runs + DP Runs
*CFのCobbとSpeakerに対しRuthのみRF/LFメインのRuns for Field(TZR)

Win Shares(Full Career)

Name Hit Field WS
Babe Ruth 608.8 44.7 653.5
Ty Cobb 639.4 82.8 722.2
Tris Speaker 511.7 118.0 629.7

*Hitting WSは走塁を含む

Ruth/Cobb>Speakerとの通説が正しかったことが証明されたかのように思えます。

確かにSpeakerは両指標の守備コンポーネントでトップに立っており、3人の中で最も優れたフィールダーであった可能性が高いことが示唆されていますが、バッティング成績のギャップを埋めるには至らなかった感じ。

例えばWillie Maysは類まれなる守備走塁を武器に同世代のより優れたバッターであったHank AaronとMickey Mantleを上回ったことで、今こうやってベースボールのMount Rushmoreに名を連ねているわけですから、Speakerも同様にそのチャンスがあったものの力及ばずといったところでしょうか。

WAR2.0による再考

しかしながら、WAR2.0に目を向けると新たな視点が得られます。

WAR2.0の算出対象である1908年シーズン以降における3人の値が下表となりますが...

WAR2.0(1908年~)

Name Bat Run Field RAA WAR2.0
Babe Ruth 1,296 26 1 1,360 155.6
Ty Cobb 993 62 -25 1,030 138.2
Tris Speaker 816 103 221 1,140 153.6

*Bat = Adjusted Batting Runs + RISP Runs + ROE Runs
*Run = Baserunning Runs + DP Runs

Speakerの守備走塁成績がbWARの旧指標から大きく異なっており、特に守備成績(Total Fielding Runs)が印象的。

+211 TFRはWillie MaysやAndruw Jones、Paul Blair、Richie Ashburnといった名手を上回り歴代OFトップの数字となっており、DVoDH(Defensive Value over DH)においても20世紀前半のプレーヤーの中ではRabbit Maranvilleに次ぐ2番手。

また、走塁成績もCobbを逆転して20世紀前半のプレーヤーの中でMax Careyに次ぐ数字に。

そのおかげでWARの値も大きく⤴️

ただ、飽くまで1908年シーズン以降に限った話であるため、1905年デビューのCobbと1907年デビューのSpeakerについて公平性を期すため、1907年シーズン以前のbWARをWAR2.0にと合算すると...

bWAR + WAR2.0(Full Career)

Name Bat Run Field WAR2.0
Babe Ruth 1,296 26 1 155.6
Ty Cobb 1,041 67 -23 147.8
Tris Speaker 814 103 221 153.4

※bWARとWAR2.0ではRAAの定義が少し異なるためカラムを削除した。

それでもSpeaker>Cobbのオーダーに。

野手Ruthは僅かにSpeakerをリードしているものの、9番ピッチャーとして出場していたキャリア序盤のバッティング成績を省くと、Cobbと同様にSpeakerの後塵を拝する形となるかも。

さらに、ピーク時の成績に目を向けても、シーズンWAR2.0のキャリアハイが11.6 WARであるCobbに対し、Speakerはシーズン13.0 WARを2度も記録。

当然ながらRuthはピッチング成績を含めればSpeakerを突き放しますし、バッター専念以降のピーク成績もSpeakerを圧倒していますが、少なくともSpeakerがCobbに勝るとも劣らないバリューを有する最高峰のプレーヤーであった可能性がWAR2.0によって示唆されているわけです。

特にSpeakerとCobbは同じCFですから、面倒なポジション補正の是非を気にする必要もないからね。

とは言っても、彼がプレーしたのは球場特性が極端だった試合。

通算Home/Away OPS=.946/.939と大半のボールパークで強打を発揮したCobbと対照的に、Speakerは.987/.865と偏りある成績を残しており、PFによるオフセットでは不十分なほどの恩恵を本拠地から授かっていた可能性も考えられますし、球場特性は守備走塁にも影響を及ぼします。

それ依然に、現在のセイバーメトリクスに当たるようなアナリティクスへの知識・理解度がほぼ皆無であり、バッターのバリューがAVGで推し量られる時代にプレーしていたため、Cobbがあのような旧態依然のプレースタイルに落ち着いただけであって、野球IQに優れた彼ならば如何なるプレースタイルが効率的か最初から分かっていればそれに準ずるプレースタイルを選択していたはず

この点に関してはSpeakerだって同じかもしれませんけど。


他の事例

WAR2.0におけるこのような事例はSpeaker×Cobbだけではありません。

Collins vs. Hornsby

同じ2Bにおいて大きく異なるプレースタイルを用いたEddie CollinsとRogers Hornsby。

走攻守のオールラウンダーだったCollinsと対照的に、Hornsbyがバッティングにおいて史上最高のRHBと度々評されるほどの強烈なインパクトと成績を残したことで、現役時代から一般的にHornsby>Collinsの格付けが行われており、近年はさらにそのギャップが開いている印象。(参考:SABRの1999年ランキング、The Sporting Newsの1998年ランキング、ESPNの2022年ランキング)

そもそもCollinsはCobbに3度も首位打者タイトルを阻まれたり、1923年MVP投票でRuthの次点に終わるなど、Speakerと同じく二大巨頭の尻に敷かれたプレーヤーでもありました。

また、HOF入りも投票4年目の1939年と比較的に遅く、今から見れば遥かに格下であるはずのGeorge Sislerより得票率は下。

しかし、オールラウンダーであったためWARにおいて非常に優れたバリューが導出されており、25シーズンの長きキャリアで稼ぎ出した通算123.7 bWARは歴代13位の数字。

bWAR(Full Career)

Name Bat Run Field RAA WAR2.0
Eddie Collins 653 35 35 733 123.7
Rogers Hornsby 855 -8 54 977 127.4

ただ、それでも通算bWARはHornsby>Collinsとなっており、やはり一般的な評価は正当だったように思えます。

特に守備力の評判が悪かったHornsbyがバッティング成績だけでなく守備成績においてもCollinsを上回っている点が印象的で、Hornsbyの守備力が寧ろ過小評価されていたのではないかと疑いたくなります。

しかしながら、WAR2.0は大きく異なる結果を与えていて...

WAR2.0(1908年~)

Name Bat Run Field RAA WAR2.0
Eddie Collins 644 96 50 799 129.8
Rogers Hornsby 857 -3 -130 724 107.0

Collinsの走塁をCobb以上・Speaker未満、Hornsbyの守備力を最低クラスの拙守と評価することで、通算WAR2.0はCollinsy>>Hornsbyの形に。

10+ WARがたった1度のみとHornsbyに対し、Collinsは計4シーズンにわたり10+ WARを記録しており、ピーク成績も同様の優劣となっています。

このようにSpeaker×Cobbと同じくCollinsy×Hornsbyのエバリュエーションについても再考が必要でしょう。

(Collinsは1906年シーズンにデビューしていますが、1906~07年に計20 Gしか出場していないため、bWARRとWAR2.0を合算する面倒な手間は省略しました。)

ちなみに、Win SharesではCollins(572.3)>Hornsby(503.3)となっており、「The Bill James Historical Baseball Abstract」のGOATランキングにおいてCollinsが第18位、Hornsbyが第22位にランクインしていました。

だから、Bill Jamesからすれば「再考だとか今更何言ってんだコイツ」って話ですよね。

Honus Wagner

1917年シーズンに引退したHonus WagnerもWAR2.0の拡大に連れて興味深いスタッツが顕わとなりつつあります。

1897年(23歳)~1917年(43歳)の21シーズンにわたるキャリアの中で+85 TZR(bWAR)を残しているWagner。

屈強な体格から想像できないほどのスピードと身体能力を誇り”The Flying Dutchman”と呼ばれたSS守備の名手には少し物足りない数字ですが、今回のアップデートによって1908年の34歳シーズンまでカバーしたWAR2.0の数字を確認すると...

1908年(34歳)~1917年(43歳)

Stats Bat Run Field WAR
bWAR 229 11 34 56.0
WAR2.0 244 1 103 64.8

30代中盤以降のプレーヤーとは信じられないような最高水準の守備成績が稼ぎ出されており、キャリアハイのバッティング成績を残した1908年シーズンに至っては優れた守備成績も相まって14.3 WARを記録。

これは1923年シーズンのBabe Ruth(14.9)に次ぐ野手歴代2位の数字。

Wagnerは1907年シーズン以前にSS他(キャリア序盤はUTやOFだった)で+51 TZRを記録していますが、将来的にWAR2.0がWagnerのキャリアの大部分をカバーするようになれば、現在132.8 bWAR(fWARでは138.1)となっている彼の通算WARがRuth、Cobb、Speakerの域に達するかもしれません。

Max Carey

また、bWARとWAR2.0が最も大きく乖離しているプレーヤーはSpeakerらと同世代のスピードスターMax Careyです。

1910年~1929年(Full Career)

Stats Bat Run Field WAR
bWAR 118 96 86 55.7
WAR2.0 137 188 215 82.9

Baserunning RunsとDP Runsの合算値+188は歴代トップ、+215 TFRはSpeakerに次ぐOF歴代2位となっており、WAR2.0の通算値はbWARを27.2も上回っています。

やはり10度の盗塁王に輝くような男は伊達ではありませんね。

WAR2.0が正しいならばの話ですけど。


最後に

現在のbWARとfWARでは異なる守備指標が採用されているため、ある程度まともなファンであれば互いの守備指標の癖や偏りを念頭に置いたうえでWARを用いているかと思います。

しかし、過去のプレーヤーに関してはそうではありません。

両方がSean Smith考案のTZRを採用したことにより、今ではSean Smith本人すら利用していない簡易的な守備指標によって過去の守備貢献度が定められてしまっています。

また、味方守備成績によってピッチャーのRA9が補正されるbWARに至っては、投手WARまでもがその影響下に。(Carl Hubbellがその最たる例、68.8 bWAR ⇔ 82.3 WAR2.0 )

そう考えると、今回取り上げたプレーヤーだけでなく、20世紀(特に世紀前半)のプレーヤー全員について再考が必要かもしれません。

P.S.

ということで、ニワカ馬鹿が8年前に記したコメントも単なるデタラメだった可能性が出てきました。

近年はプレーヤーのバリューを測る有用な指標というより、むしろ「バカ発見器」としての側面が強まっているWARですが、こういったところでもその性能を発揮しているようです。



 

コメント

  1. 匿名 より:

    バッターのバリューがAVGで推し量られる時代にプレーしていたため、Cobbがあのような旧態依然のプレースタイルに落ち着いただけであって、野球IQに優れた彼ならば如何なるプレースタイルが効率的か最初から分かっていればそれに準ずるプレースタイルを選択していたはず

    この点に関してはSpeakerだって同じかもしれませんけど。

    近年はプレーヤーのバリューを測る有用な指標というより、むしろ「バカ発見器」としての側面が強まっているWARですが、

    やっぱりイチローが世界一の野球選手やな!

    • 管理人 より:

      一部国と地域だけに普及しているスポーツで「世界一」って言葉使うの違和感があるよね。

  2. 匿名 より:

    それ言い出したら100m走ですらダメじゃん。陸上習う人の割合なんてたかが知れてるわけだし

    • 管理人 より:

      だから”人気がある”といった表現ではなく”普及”を用いたわけですけど。

  3. 匿名 より:

    世界で1000人しかその競技を知らなくてもその中で1番なら世界一だと思ってた

  4. 匿名 より:

    今更ながらBaseballProjection(WAR2.0)のサイトを見てるんですが、
    これって「昔の選手と一律の基準で評価する」というコンセプトのもと、
    守備評価は2002以降もDRS/UZRではなくPlay-By-Play(Retrosheet)を使ってるんですかね?

    Play-By-PlayからOAAやFRMまで出してるのは驚きですが(近年のFRMは流石にSavantから取ってるようですが)、
    「現代の選手を評価する」という視点で言えば、FRVベースのfWARの方がより正確なんですかね。

    • 管理人 より:

      一律の基準というコンセプトが念頭にあるようですが、DRSとUZRはRetrosheetのようにオープンデータではないため、そこら辺のしがらみもあるはずです。

      DERを用いたWAR2.0の守備指標の変更は、JAARFというRFベースの簡易式で算出していた20世紀前半において意義があるだけで、20世紀後半なら一部のコンポーネントを除けばTZRの方がまともでしょうし、少なくとも現代のZone指標やStatcast指標とは比べ物になりません。

      だから、これまで20世紀前半のプレーヤーを取り上げてきました。20世紀後半以降について再考するメリットは大してありませんから。

  5. 匿名 より:

    英語弱者の私がなんとか読み取った限りでは、WAR2.0におけるOAAは、当然トラッキングデータ前提のものではなく、TZR的なアプローチに近しいものに思えたのですが、なぜ、rWARとWAR2.0とで、守備得点に184もの差が生まれるのでしょうか?