MLBの歴史に残る特大ホームランの推定飛距離とその現実 Part1

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今ではStatcastやその他トラッキングシステムによって高い精度でホームランの飛距離が計測されるようになりましたが、それまでの飛距離推定は何でもアリの世界。

皆さんも馬鹿げたような飛距離を様々な媒体で目にしていたかと思います。

その中でStatcastが誕生する以前、私が大変お世話になったサイトがあります。

偉大なるHit Trackerです。

(ESPNの運営下に移行後はHome Run Trackerにリネーム)

これは元海軍エンジニアのGreg Rybarczykが2006年に立ち上げたサイトで、HRの着弾地点と滞空時間に風速などの様々なパラメーターを組み込み、HRの推定飛距離やEV、LAを算出。

さらに、MLBのHR全てをデーターベース化し、現在のxHRに当たるような指標も公表する非常に有用なサイトでした。

また、Statcastの運用当初は計測ミス(エラー)が非常に多く、Statcast運用開始後も私はセカンド・オプションとして利用を継続し、下記リンク記事もそういった事情の下で投稿。

現在、MLBにおいて一大センセーションを巻き起こしているStascast、そのさまざまな計測の中でも1位2位を争うほど人気があるのがホー...

そして、当サイトの中では「Highlight Homers 」と題し、過去の有名な特大HRの飛距離の再計算を行うことで、無法地帯と化していた飛距離推定に一石を投じていたのが、今回はその内容を取り上げたいと思います。

端的に言えばパクリですけど、罪悪感を減らすため、当時の報道内容や小ネタもねじ込みました。


Statcastによって存在意義が薄れただけでなく、RybarczykがBOS職員に専念することになっため、2017年限りでサイトは閉鎖。

ただ、Internet ArchiveのWayback Machineにデータが残っています。

当然ながら、現代トラッキングシステムと比べると、眉を顰めたくなるような数字が並んでいますが、2006年にこれほどのサイトを作り上げるとは感服の一言。



Mickey Mantle(1963年)

当時の推定飛距離 600 ft 183 m
HTの再計算値 503 ft 153 m

1963年5月22日、当時31歳だったMickey MantleがYankee Stadiumのアッパーデッキ上部のファザードにぶち当てた超有名なHR。

1963年当時は600 ftと推定され、Mantle本人も”The hardest ball I ever hit”とコメントするほどの強烈な一発でした。

また、Yogi Berraや観客席のファンが「ファザードに衝突した時点もボールはまだ上昇を続けていた」などと語ったことで、後には734 ft(224 m)という無茶苦茶な推定も生まれ、野球史上最長のHRと信じる人間も少なからずいるようです。

ただ、ファザードの着弾点は高さ102 ft、水平距離363 ftとイメージほどホームベースから離れておらず、Hit Trackerは503 ftと現実的な数字を導き出しています。

ちなみに、当HRの条件下において、打球が600 ft先まで到達するには149 mph、734 ft先まで到達するには175 mphのEVが必要とのこと。

Ted Williams(1946年)

過去の推定飛距離 502 ft 153 m
HTの再計算値 530 ft 161 m

Fenway Park史上最長HRとして、着弾点の座席が赤く塗られたことで有名なHR。

飛距離は長らく502 ftと考えられており、Manny RamirezDavid Ortizが特大HRを放ったとしても、BOSはそれ以上の飛距離と認めることはありませんでした。

ただ、試合直後はさほど話題になっておらず、試合翌日の報道における推定も450 ftと控えめ(単なる着弾点までの距離を算出しただけで、観客席が無かった場合の地面までの飛距離を導き出したわけではなかった。)

502 ftは1980年代(恐らく座席を赤く塗った1984年)に球団が発表した値です(これも単なる座席までの水平距離だった模様)

しかしながら、Hit Trackerによる新たな推定飛距離は530 ft

さらに、2024年にはMLBのMike Petrielloもより高度な手法を用いて飛距離の算出を行っており、Hit Trackerの推定飛距離に非常に近しい532 ftという値を導き出しています。

There’s absolutely no shortage of legendary home runs in baseball history, whether we’re talking about Babe Ruth’s “called shot” in 1932, Bobby Thomson’s “Shot ...

何にせよ、本当に同球場最長HRである可能性は非常に高い。

Mark McGwire(1998年)

過去の推定飛距離 545 ft 166 m
HTの再計算値 487 ft 148 m

シーズン16号、そして同シーズン70 HRの中で最長と称される一発。

バックスクリーンのSt. Louis Post-Dispatchの横長広告に直撃し、本人も「人生で最高の当たり。これ以上飛ばすのは無理だと思う。」と語るほどの会心の一撃。

ただ、Hit TrackerはドーピングHRにも容赦なく、導き出した飛距離は現実的な487 ft

ちなみに、St. Louis Post-Dispatchの広告に直撃するような軌道で545 ft飛ばすには、157 mphものEVが必要になるとのこと。

ある意味ではMickey Mantleの600 ftよりもデタラメですね。

Jose Canseco(1989)

過去の推定飛距離 480 ft 145 m
HTの再計算値 443 ft 135 m

前年にMVPを受賞した全盛期のCansecoが、開場したばかりのSkydomeの5階席(セクション540)へ叩き込んだ印象的な一発。

ALCSで放ったHRのため映像がしっかりと残っていますが、理系の人間ならば大した飛距離ではないことが一瞬で分かるかと思います。

当時Skydomeのコンピューター(飛距離算出用の端末か何かか?)は480 ftと算出したものの、Hit Trackerの算出値はたった443 ft

Skydomeなので風速など環境パラメーターが大きく誤っている可能性も低いでしょうし、やはり単なる並みのHRですね。

また、世間的には540 ft(165 m)という推定飛距離が定着していますが、これはWashington Postの偉大なる著名記者Thomas Boswellが「セクション540まで飛んだから、540 ftってことでよくね(意訳)」と冗談を記事に書いた結果、何時の間にか真面目な数字として広まってしまった感じ。

実際にプレイボーイかつ自意識過剰なCanseco本人ですら「打った感触はあまりよくなかった。そこまで飛んでないと思う。」と過剰な飛距離推定に困惑していた模様。

Andres Galarraga(1997年)

過去の推定飛距離 529 ft 161 m
HTの再計算値 468 ft 143 m

こちらも誰もが目にしたことがあるインパクト抜群の一発。

Pro Player Stadium(現Hard Rock Stadium)のセクション413、20th Rawまで飛んだ当HRは当時529 ftと推定され、Pete Incaviglia(1996年)の482 ftを上回る同球場最長(と考えられる)のHRとなりました。

ただ、実際には着弾時点で404 ftしか飛んでおらず、Hit Trackerの算出値は60 ftも下の数字。

まあ、カメラワークも悪いわな。Cansecoの一発と違って、とんでもない飛距離に見えるもん。

Glenallen Hill(2000年)

過去の推定飛距離 490 ft 149 m
HTの再計算値 500 ft 152 m

Wrigley Field場外の3階建ビルの屋上まで飛んだPART1唯一の場外HR。

球団の公式発表は490 ftと現実的な数字で、当時から「もっと飛んでいるはず」との声を集めてきましたが、Hit Trackerは球団を後押し。

ただ、本人は700 ft(213 m)と主張したり、「ノースウェスタンの数学者から590~600 ftと聞いた」と当時話しています。