モントリオール・エクスポズの末期

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かねてから不人気を理由に球団移転が噂されていたタンパベイ・レイズがモントリオール(トロントに次ぐカナダ第2の都市)への半分移転の許可をMLBから得たことで話題に。まだMLBの”許可”を得ただけで決定したわけでもなく、もし実現するとしても早くとも半分移転は8年先以降のこととなるでしょうが、MLBの新たな挑戦として期待したいところ。

そして、モントリオールと言えばワシントン・ナショナルズの前身球団であるモントリオール・エクスポズの本拠地。しかし、モントリオールは最後まで野球人気が野球人気が根付かなかった都市でもあります。

今回の記事では当時MLB最低の不人気球団として数々の逸話を残したエクスポズの球団末期について取り上げました。



球団概要

モントリオール・エクスポズは1969年の球団拡張によりモントリオールに新設されたチーム。トロント・ブルージェイズが新設されたのが1977年なのでこの時点ではMLB唯一アメリカ国外に本拠地を持つチーム。

1977年からは1976年のモントリオール・オリンピックで使用されたオリンピック・スタジアムを本拠地として好調な観客動員数を記録しゲーリー・カーター、アンドレ・ドーソン、ティム・レインズ、ペドロ・マルティネス、ブラディミール・ゲレーロなど殿堂入り選手が多くプレーしていたにも関わらずチームは低迷。PS出場を果たしたのもストライキによって短縮シーズンとなった1981年だけでした。

さらに1980年代前半までは成績のわりに好調だった観客動員でも1994年のストライキとオリンピック・スタジアムの老朽化の相乗的な悪影響をもろに受け大幅に減少。

とうとう2004年にチームは実質的に消滅し代わりにワシントンにワシントン・ナショナルズが新設される(形式上は移転)こととなって現在に至ります。


マイナー球団以下の観客動員数

1980年代後半から観客動員数が大きな伸び悩みを見せ1991年にはMLBワーストの93万人を記録。しかし、1992年からはラリー・ウォーカーやモイゼス・アルー、ペドロ・マルティネスなどの活躍により優勝争いを見せ1994年には球団初の地区優勝まであと一歩でしたが不運なことにシーズン途中でストライキに突中。

このストライキによ年俸高騰を理由に1995年のシーズン前にペドロ・マルティネス以外の主力戦をほとんど放出。(マルティネスはMLBで実質2年しかプレーしておらず最低年俸クラスだった。) このファイヤーセールによりファンの怒りを買ったエクスポズは観客動員に再び苦しむようになり、さらにオリンピック・スタジアムの老朽化が大きな打撃に。

2001年には29位のマーリンズの約半数となる年間動員64万人(1試合平均7900人)を記録。チケットの総売上はたったの640万ドル(当時の為替レートで約7億7000万円)で当時のチーム最高となる年600万ドルを受け取っていたブラディミール・ゲレーロの年俸とほぼ変わらない数字。

ちなみにこの年はマイナーリーグで13のチームがエクスポズ以上の1試合平均観客動員数を記録しています。

Franchise History
Year W L W-L% Finish Attendance
2004 67 95 .414 5th of 5 749,550
2003 83 79 .512 4th of 5 1,025,639
2002 83 79 .512 2nd of 5 812,045
2001 68 94 .420 5th of 5 642,745
2000 67 95 .414 4th of 5 926,272
1999 68 94 .420 4th of 5 773,277
1998 65 97 .401 4th of 5 914,909
1997 78 84 .481 4th of 5 1,497,609
1996 88 74 .543 2nd of 5 1,616,709
1995 66 78 .458 5th of 5 1,309,618
1994 74 40 .649 1st of 5 1,276,250
1993 94 68 .580 2nd of 7 1,641,437
1992 87 75 .537 2nd of 6 1,669,127


フランス語のみのテレビ中継

(モントリオールはカナダの東に位置していることもあり人口の3分の1がフランス語を母国語としている特殊な都市。近年は移民の増加などにより英語を母国語としている市民は20%未満となっているよう。)

1999年シーズンオフに放映権料の引き上げを狙ったオーナー(とフロントオフィス)が地元テレビ局との交渉に失敗し2000年シーズンから地元メディアの英語によるテレビ&ラジオ中継が消滅しフランス語のみに。2001年の地元メディアによる放映権料はたったの約54万ドル(約6500万円)で、これはMLB29位のミルウォーキー・ブリュワーズ(約590万ドル)の1割にも満たない常識外の金額。(MLBトップのヤンキースは年間約9800万ドル)

最終的に英語中継が復活したのはチーム最終年の2004年シーズンのことでした。

👇当時のフランス語中継


ジェフリー・ローリア

1999年シーズンオフにチームが売却されオーナーが交代。新たにオーナーとなったのは後にマイアミ・マーリンズを買収しアメリカスポーツ界最低のオーナーとして悪名を轟かせることになるあのジェフリー・ローリアでした。

「フランス語のみのテレビ中継」で書いたように放映権契約の交渉に失敗したのもこのローリアであり、オリンピック・スタジアムの老朽化による新球場建設計画における地元との交渉でも無理な要求を吹っかけ計画を滅茶苦茶に。

最終的に2001年のシーズンオフにはMLB機構自らローリアから1億2000万ドルでチームを買収し、ローリアはこの売却額により新たにマイアミ・マーリンズを買収することになります。

ちなみに、ローリアはエクスポズからマーリンズへの鞍替えの際に、パソコンなどのオフィス機器やスカウティング・レポート、フロントオフィスのスタッフ、コーチ陣などのほとんどを持って行ってしまい、売却直後にはGMも含めて球団職員がたった7人しか残っていなかったという信じられないような逸話も。(下がその7人のリスト)

  • オマー・ミナヤ(新GM)
  • 2人の事務職員(アシスタント)
  • メディア対応職員(上級職)
  • トレーナー長
  • マイナーリーグの投手コーチ
  • マイナー組織育成監督(アシスタント)


プエルトリコでの試合開催

モントリオールでの観客動員に限界を感じたMLB機構はテコ入れのために2003年から一部のホーム戦(約4分の1)をプエルトリコの首都サン・フアンで開催。しかし、大幅な観客動員数アップには繋がらず、そもそもプエルトリコは物価が安いのでこれといった収益増加にもならず失敗に。

最近では新球団の本拠地候補としてメキシコのメキシコシティと共にサン・フアンの名前が良く挙がりますが・・・。


年間収益

それじゃあ年間収益はどれぐらいだったのか?

以下の表がMLB機構からの分配金、収入分配制度も含めたエクスポズの年間収益です。

年度 年間収益(ドル)
1995 2760万
1996 3990万
1997 4360万
1998 4450万
1999 4850万
2000 6080万
2001 6270万
2002 6600万
2003 8100万
2004 8000万

上記の期間中は毎年MLBワーストの年間収益を記録。

しかし、上でも書いたようにこの金額はMLB機構からの全チームへの一律の分配金と収入分配制度による貧乏球団への配当金を含めた数字。

これらの分配金・配当金を除いたモントリオールにおける地方収益(Rocal Revenue)は以下の通りとなります。

年度 年間収益(ドル)
1995 2010万
1996 2110万
1997 2040万
1998 1420万
1999 1170万
2000 1230万
2001 980万
2002
2003
2004

(2002年~2004年はデータが見つからず不明なものの、)エクスポズの年間収益は年増加していましたがMLB全体での収益の増加と収入分配制度の充実によるものであり、地方収益は増えるどころか減少し続けていたことが分かります。

ワシントン移転後はMLB全体でも10位~15位程度の地方収益をしているのでモントリオールからの撤退は大成功だったと言えますね。


小ネタ

最後にエクスポズの不人気・貧乏にまつわる小ネタをいくつか。

・予算の不足を理由にセプテンバーコールアップを行わず25人のままプレー。

・地元のタクシー運転手が球場の場所を知らない

・オリンピック・スタジアムのフィールドの芝がボロボロだったためFAで外野手が集まらない

・2001年9月17日~19日のマーリンズとの3連戦の観客動員数はたった8817人