惑星最悪と呼ばれるヤンキースのファンベースにて今最も人気を博しているオピニオンは「IKFをトレードして、アンソニー・ボルピを開幕から起用しろ!」でしょう。
これに対し、低レベルな同ファンベースの中でも流石に「サービスタイム管理の方が大事だろ!」との意見が噴出し低次元な対立構造が生まれるも、前者の方が圧倒的多数を占めているのが現状。
私個人は感覚的に後者の味方なのですが、感覚で語っても意味無いので、損得を概算しようと思い立った次第。
結果として酷い内容となったので、思い立った段階で止めときゃよかったなと。
目次
前提条件の設定
もちろん春季キャンプ中にIKFをトレードしてアンソニー・ボルピを開幕から起用することが前提条件です。IKFのトレードの実現性については面倒なので考えません。
IKFのセンター起用の可能性、オズワルド・ペラザやドナルドソンの存在も考慮すべきなのでしょうが、そんなことまでは私の手に負えません。無視します。
サービスタイム操作のパターン
現制度上では187日間のレギュラーシーズンのうち172日のサービスタイムを得るとフルシーズンに換算され、スーパー2制度によってサービスタイム2~3年のうち上位22%が3年を満たずして年俸調停権を獲得。
今シーズンのスケジュールでは15試合目(4月15日)以降にMLBデビューするとサービスタイムが172日未満に。
また、スーパー2制度の上位22%サービスタイムはシーズンによって異なりますが、昨シーズンの128日を今シーズンに当てはめると、56試合目(5月29日)以降のMLBデビューによってスーパー2制度を逃れることができます。
上記を踏まえ今回の記事では①開幕から起用、②サービスタイム172日回避、③スーパー2制度回避の3パターンを想定することにします。
パターン | デビュー日 | 出場試合数 |
① | 3月30日 (開幕戦) |
162試合 |
② | 4月15日 | 148試合 |
③ | 5月29日 | 107試合 |
2023年の成績期待値
まずは最も重要かつ基本的なコーポネントの比較を行いますが、同ポジションの選手同士であるため走攻守の得点期待値を算出するだけの簡単な作業。
打撃
客観性を期すため各成績予測システムにおけるwOBA予測値の平均値を用います。
もちろん各システムによって想定するリーグ平均成績やwOBAのコンポーネント値は異なるでしうが、誤差の範囲内と捉えても構わないかと。
また、プロスペクトのボルピと安定感の塊であるIKFの予測値のレンジが大きく異なる点は百も承知ですが、だから何だっていう話よ。
そもそも各システムの予測値は50パーセンタイル値を用いているはずなので、予測値≠期待値でけど…
wOBA予測
システム | ボルピ | IKF |
ZiPS | .318 | .283 |
Steamer | .303 | .296 |
ATC | .303 | .291 |
THE BAT | .294 | .286 |
平均 | .305 | .289 |
ボルピは.305 wOBA(97~98 wRC+相当)、IKFは.289 wOBA(87~88 wRC+相当)が見込まれており、次にこの数字を得点(wRAA)換算する必要があるわけですが、この成績だとヤンキース打線では7~9番を務める可能性が大。
よって、予測wOBA、7~9番のMLB1試合平均打席数3.83、パターン別出場試合数を用いて、各パターン間の予測wRAAを算出。
予測wOBA→wRAA換算
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | -0.2 | -0.6 | -1.6 |
IKF | -0.9 | -2.6 | -6.8 |
差分 | +0.7 | +2.0 | +5.2 |
上記の通り、開幕からIKFの代わりにボルピを起用した場合、パターン②のサービスタイム172日回避分岐点までに0.7、パターン③のスーパー2制度回避分岐点までに2.7のプラス得点が見込まれます。
ただ、「アンソニー・ボルピを開幕から起用しろ」と叫んでいるファンたちの中で、彼の打撃成績がMLB平均未満に終わると信じる者など誰一人いないでしょう。
私はファン個人の感覚より統計を圧倒的に支持しますが、(対戦相手の質が低いとは言え)春季キャンプで好成績を残しているのも事実なので、MLB平均超の打撃成績を残した場合の得点差分も記しておきます。
.320 wOBA(110 wRC+)→wRAA換算
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | +0.5 | +1.4 | +3.6 |
差分 | +1.4 | +4.0 | +10.4 |
.335 wOBA(120 wRC+)→wRAA換算
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | +1.2 | +3.4 | +9.0 |
差分 | +2.1 | +6.0 | +15.8 |
.350 wOBA(130 wRC+)→wRAA換算
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | +1.9 | +5.5 | +14.4 |
差分 | +2.8 | +8.1 | +21.2 |
ちなみに、2020年を除く過去5シーズンにおいて、最高の打撃成績(wRC+)を残した二三遊ルーキーは2018年のアンドゥハー(129 wRC+)です。
よって、130 wRC+が天井だと考えて差し支えないでしょう。
走塁
IKFの走塁成績(BsR)はMLBのレギュラー格の中で約80パーセンタイルに位置しています。
対してボルピの走塁評価は55~60が大多数を占めており、これは約60~90パーセンタイルに値。
つまり、走塁による得点創出の期待値はIKF>ボルピ。実際に各予測システムにおいても走塁成績の見込みはIKF>ボルピとなっています。
ただ、その差は微々たるものであり、わざわざ手間を掛けて勘定する必要性はありません。
守備
ヤンキースファンはIKFのショート守備力をワースト級と捉えていますが、当然ながらファンの感覚など知ったこっちゃありません。現代の三大守備指標DRS、DPR、OAA+UZRを用います。
過去2シーズンにおいてIKFはDRSとDPRにてMLBトップクラス、OAA+UZRにて平均未満のショート守備成績を残しているわけですが、3指標を平均し162試合フルシーズン換算すると+4.9点となります。
対してボルピのショート守備評価は兼ね”50″となっているため、今回は守備成績期待値=プラマイゼロと想定します。
守備得点比較
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | ±0.0 | ±0.0 | ±0.0 |
IKF | +0.4 | +1.3 | +3.2 |
差分 | -0.4 | -1.3 | -3.2 |
走攻守合計
上記の打撃・走塁・守備の得点差を纏めると下表の通り。
ボルピはIKFと比べフルシーズンで約3得点分の価値を持つと考えられます。(もちろんショートがフルシーズン162試合出場できるわけありませんが…)
最近のMLBでは10得点=1勝弱と換算されるため、3得点を勝利数に換算するとたった0.3勝。
チームの期待勝率の上がり目は0.19%となります。
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | -0.2 | -0.6 | -1.6 |
IKF | -0.5 | -1.3 | -3.6 |
差分 | +0.3 | +0.7 | +2.0 |
また、平均超の打撃成績を残した場合は以下の通り。
.320 wOBA(110 wRC+)
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | +0.3 | +0.8 | +2.0 |
差分 | +0.8 | +2.1 | +5.6 |
.335 wOBA(120 wRC+)
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | +1.2 | +3.4 | +9.0 |
差分 | +1.7 | +4.7 | +12.6 |
.350 wOBA(130 wRC+)
― | ①~② (14試合) |
②~③ (41試合) |
③~ (107試合) |
ボルピ | +1.9 | +5.5 | +14.4 |
差分 | +2.4 | +6.8 | +18.0 |
IKFのトレードバリュー
IKFの代わりにボルピをショートのレギュラーに据えることで、ペラザをAAAに落としIKFを内野の控えUTとして活用する手もありますが、40人ロースター管理の観点からトレードが現実的。
(現時点におけるショート(内野UT)のニーズは置いといて)今オフにおけるIKFクラスのFA契約額を踏まえると、年俸600万ドルの彼のトレードバリューは最大300万ドル程度かなと。
そして、このバリューがシーズン進むに連れて右肩下がりで下落するイメージで、パターン③のタイミングで放出するなら200万ドル程度と想定。
ただ、贅沢税ペイロールが第4しきい値$2億9300万スレスレのヤンキースにとって、IKFのトレードはネットバリュー以上の意義がありますね。
新人王獲得ボーナス
現在のルールでは、”シーズン前にMLB公式、ベースボールアメリカ、ESPNのうち2媒体以上でランキングTop100に格付けされたプロスペクト”が開幕ロースター入りした上で新人王を受賞すると、ボーナスとして翌年のドラフト1巡目の後に指名権が与えられます。
つまり、ボルピが開幕ロースターを入りを果たし新人王を獲得することによって、ヤンキースは2024年ドラフトの全体28位指名権を得るわけです。(贅沢税ルールによりメッツ、ヤンキース、パドレスはドラフト1巡目指名順位がマイナス10となることが濃厚。)
そして、全体28位指名権を金額に換算すると約1300万ドル。
続いてボルピが新人王を獲得する可能性について考えます。
直近5フルシーズン(2017年以降)における新人王のWAR(今回はrWARを採用)は平均値が4.9、中央値が4.1。
(ショートがシーズン162試合・700打席プレーする可能性は低いため)現実的な150試合・650打席へ固定し、ZiPSやPECOTAの傾向から経験則によってボルピのパーセンタイル別予測成績を示すと以下の通り。
150試合・650打席固定
パーセンタイル | wRC+ | WAR |
90~95 | 130 | 5.6 |
80~90 | 120 | 4.8 |
70~80 | 110 | 4.0 |
50 | 97 | 3.0 |
よってボルピを開幕から起用して新人王に輝く可能性は20%前後、開幕起用によるヤンキースの獲得ボーナス期待値は250万ドル強程度と考えられます。
サービスタイム管理のバリュー
次にサービスタイムを管理しFA取得年度を遅らせたりスーパー2を回避した場合の年俸削減についてです。
22歳目前のボルピが現評価(FV60~65)通りの成長を見せFAとなった場合、現時点の貨幣価値で年2500万ドル程度の契約を手にすることでしょう。
私の見込みではパターン②によって今シーズンのサービスタイムを1年未満に抑えた場合(2029年シーズン終了後にFA)、パターン①によって今シーズンにサービスタイムを1年計上する(2028年シーズン終了後にFA)場合と比べて1500万~2000万ドル程度のバリューが。
さらに、パターン③によってスーパー2を回避すると、パターン②と比べ2029年シーズン終了までヤンキースが支払う総年俸は約1000万~1500万ドル程度抑えられます。
もちろん、ボルピが期待以上(外れ)のパフォーマンスを残せば、この金額も上下することになる訳ですが、何にせよサービスタイム管理の意義は莫大です。
新人王2位以内ボーナス
新人王について先述の通りチーム側にボーナスが設けられていますが、その一方で”シーズン前にMLB公式、ベースボールアメリカ、ESPNのうち2媒体以上でランキングTop100に格付けされたプロスペクト”が新人王投票2位以内に入ると、プレー日数関係なく1年のサービスタイムが計上されます。
つまり、ボルピが新人王投票2位以内に入ってしまうと、パターン②③によるサービスタイム管理は意味をなさなくなるわけです。
ちなみに、直近5フルシーズン(2017年以降)における新人王投票2位のWARは平均値が3.7、中央値が3.2ですが、ヤンキース所属選手に対する毎度の過大評価によってボルピであれば3.0WAR程度でも投票2位に入ると想定されます
パターン②の残り148試合時点からプレーすれば45%程度の確率、パターン③の残り107試合時点からプレーすれば25%程度の確率で3.0WAR以上を残すはず。
よって、前章で示したサービスタイム管理のバリューはパターン②-①=800万~1100万ドル程度(1500万~2000万ドルの55%)、パターン③-②=750万~1100万ドル程度(1000万~1500万ドルの75%)と考えるべきかと。
シーズン途中のマイナー降格
本記事全般に関わってくる話ですが、そもそもボルピを開幕から起用したとしても、シーズン途中に都合よくマイナーへ降格させサービスタイムを管理する手もあります。
実際に昨シーズン、フィリーズはブライソン・ストットを開幕から起用するも、低成績を理由にマイナーへ送り返しています。そして、約2週間後にMLBへリコールしていますが、最終的なサービスタイムは171日。降格は低成績が理由だったかもしれませんが、再昇格のタイミングは明らかにサービスタイム172日ルールがコントロールポイントとなっていますよね。
ヤンキースの場合はボルピやIKFと成績期待値が変わらぬオズワルド・ペラザがいるだけでなく、IKFを放出せずベンチに残す、オズワルド・カブレラを外野から戻すなど様々なオプションが存在するのも事実です。
ただ、ボルピは現時点でMLBロースター外のプレーヤー。
上記の様々なオプションをバックアップとして、ボルピを開幕から起用し現時点での実力を見極めたうえでフルシーズン起用 or マイナー降格を判断するのもアリですが、ロースター枠を潰すことによってそのメリットは相殺されるように感じます。
総括
総括すると…
IKFをトレード&開幕からボルピを起用する場合、ボルピのMLB昇格をサービスタイム1年未満に抑えられる4月15日以降に昇格させる場合と比べて、ヤンキースは期待勝率が0.2%上昇する代わりに約700万ドルの損失を被る。
さらに、スーパー2制度を回避できる5月29日以降に昇格させる場合と比べるとなると、その損失は約1500万ドル(700万ドル+800万ドル)にも上ると考えられます。
他の様々なファクターを考慮していないどんぶり勘定ですが、個人的にはパターン②はおろかパターン③を選択して、スーパー2を確実に回避できるであろう6月下旬までMLB昇格を遅らせるべきだと思いますね。
そりゃIKFやペラザがスランプに陥ったり、ボルピがAAA開幕から期待以上の強打を披露すればパターン②も仕方がないでしょうけど、フルシーズンの1割にも満たないたった14試合のため開幕起用を行うのは許容できません。
というか、そもそもボルピの将来の活躍を期待すればするほど、FAイヤーを遅らせることが得策だと考えるべきなのでは?
コメント
ヤンカスのTwitterみるとIKFめっちゃ嫌われててわろける