スペンサー・ジョーンズ(Spencer Jones):ヤンキース・プロスペクト


2022年度MLBドラフトにて全体25位指名権(1巡目)を持つニューヨーク・ヤンキースが指名したヴァンダービルト大学の外野手スペンサー・ジョーンズ(Spencer Jones)について
2023年シーズン前半戦終了時点におけるニューヨーク・ヤンキースのプロスペクト(有望株)ランキングTOP50を作成

スペンサー・ジョーンズ

Spencer Jones:55 FV
2001年5月生(22歳9か月):198cm・106㎏:CF

AA:2022年ドラフト1巡目(全体25位:契約金$2.88M)
選手ページ:MiLB公式Baseball ReferenceFanGraphs

Hit Power Run Arm  Field OA
30/40 60/75 60/60 65/65 40/45 35/55

eコマース専門のエンジニアとして自転車用品メーカーやゴルフ用品メーカーに勤める父を持つ中流階級家庭に生まれ、リトルリーグ所属の12歳時点で既に身長は6’2″に到達。

ピッチャーとして球速は80mph弱に達し、LLWS進出寸前まで勝ち進むなど、早くから傑出した存在だった模様。

中学時代は野球に加えてフットボールとバスケットボールをプレー。高身長と身体能力を考えれば特にバスケットボールで成功を収めそうなものですが、まともなドリブリングやハンドリングを習得できず、パフォーマンスは芳しくなかったようです。

そして、地元エンシニータスの隣町にあるラコスタ・キャニオン高校へ進学。

決して名門又は強豪と呼べるような高校ではありませんが、3年先輩には2016年ドラフト全体1位指名のMickey Moniakがおり、JonesがMLBへ到達すればドラ1同郷・同ポジション選手として何かと比較されることでしょう。

また、高校入学前から既にNCAAの強豪から声が掛かるほど高い評価を受け、高校入学の約半年後に早くもヴァンダービルト大学へコミット。

さらに、中学限りでフットボールとバスケットボールを引退し、高校からは野球に専念するなど、長期的視野に立った動きを見せています。

中学時代は故障リスクを抑えるため投手でのプレーを抑えていたものの、高校進学後はリトルリーグ時代のように二刀流を再開。野手としては1Bをメインにプレー。

特にピッチングへウェイトを置いた高校3年次(2018年)には、球威向上を見せる(最速94~95mph・常時90~91mphを計測)など投手として大きな前進を見せ、ナショナル級のショーケースイベントにて登板するほどの全米級プロスペクトに。

野手として打席では超高校級のパワーを披露していたといえ、当時は球威だけでなくブレーキングボールの評価も高く、投手向きの体格も影響し、将来性については投手>野手と見做され、ドラフト2019年クラス1巡目前半級の評価を与えるエバリュエイターも。

順当に行けば高校球界最高の二刀流プレーヤーとして、2019年ドラフト全体30位指名権を持つNYYにとって手が届かない存在となるはずでしたが、3月のシーズン4登板目にてカーブを投じた際に左肘を骨折。

シーズン終盤にDHとして何とか実戦復帰を果たしたものの、ドラフト候補生としての評価は急落。

元々、ヴァンダービルト大進学の意志が強かったこともあり、NCAAでの再チェレンジへ素直にシフト。

ドラフト本番でもオーバースロットによって引き留めようとするチームは現れず、31巡目にてLAAから手付指名を受けるのみに留まりました。


Year Age Tm Lg Lev G PA H HR SB BB SO BA OBP SLG OPS
2020 19 Vanderbilt SEC NCAA 14 42 7 0 0 4 7 .206 .333 .324 .657
2021 20 Vanderbilt SEC NCAA 34 107 26 3 4 7 33 .274 .346 .421 .767
2022 21 Vanderbilt SEC NCAA 61 272 85 12 14 32 64 .370 .460 .644 1.103

フレッシュマンイヤーとなる2020年はハイレベルなSECに全くついていけず、カンファレンス最低級の打撃成績を残したままCovid-19によりシーズン途中終了。

前年の骨折の影響を引きずり投手として登板する事もありませんでした。

そして、翌年の二刀流復帰を見据え、7月から始まるサマーリーグでは投手に復帰。

しかしながら、早速ながらも初回登板でUCLを損傷にトミー・ジョン手術に。この2年連続となる肘の大怪我によって、投手としてのキャリアに見切りを付け、以後は野手に専念することになります。

DHとしてプレーした2021年は前年と同じく低調なパフォーマンスが続き、シーズン終盤戦にはとうとうベンチへ降格。

チームはCWS準優勝を果たしたものの、NCAAプレーオフにおける先発出場はたった1試合のみで、大学進学は大失敗に終わったかにも思えました。

ただ、この時期にビルドアップを行い、体重が約30ポンドも増加。

さらに、シーズン終了後に参加したケープコッドリーグでは、何故か木製バットへの適性を見せ活躍。1BとRF/LFを守るなど実戦守備も再開。所属チームはリーグ優勝を果たし、本人もAll-League 1st Teamに選出。

そして、ドラフトイヤーとなる2022年シーズンにとうとうバッティングが開花。

単にコンタクトとアプローチのスキルが向上しただけでなく、80グレード級のローパワーをゲームパワーにトランスレートする術も身に着け、当時のNCAA記録となるEV 119.1 mphを叩き出すなど前人未到のEVレコードを記録。

低弾道や対LHPに苦しむなどウィークポイントこそ多々あったものの、超ハイEVによってBABIP上振れの壁をブチ破り、OPSは.300以上も向上。

再びドラフト上位指名候補に返り咲く形に。

また、シーズン終了直後に同業界大手であるLoden Sports社の身体能力テストにて上位1%未満の数値を叩き出し、特にパワーとスピードのコンビネーションは上位0.22%の水準に。

さらに、MLBドラフトコンバインにおいてもMax EVにて全体トップ、30ヤード走にて全体3位となり、体格離れした規格外の身体能力を世に知らしめました。

フィールドの内外で優れたパフォーマンスを残したとは言え、そのハイバリアンスからエヴァリュエーターからの評価は分かれたものの、ドラフト直前には大学生野手を狙っていたNYY(全体25位)を始めとして1巡目後半~戦力均衡ラウンドAで保有権を持つチームからの指名が有力に。

そして、身体能力テストで抜群の結果を残すTrey Sweeneyを1巡目指名したり、ドラフトコンバインで好成績を残したプレーヤーを数多くオーバーピックするなど、近年オフフィールドでのパフォーマンスを重視しているNYYが一部のモック通りにピック。

スロットボーナスに従い$2.88Mにて契約を結びました。


Year Age Tm Lev G PA H HR SB BB SO BA OBP SLG OPS
2022 21 2 Teams A-Rk 25 106 32 4 12 11 20 .344 .425 .538 .962
2022 21 Tampa A 22 95 27 3 10 10 18 .325 .411 .494 .905
2022 21 Yankees Rk 3 11 5 1 2 1 2 .500 .546 .900 1.446
2023 22 2 Teams A+-AA 117 537 128 16 43 49 155 .267 .336 .444 .780
2023 22 Somerset AA 17 78 18 3 8 7 22 .261 .333 .406 .739
2023 22 Hudson Valley A+ 100 459 110 13 35 42 133 .268 .337 .450 .787

プロ入り直後からAにてMax EV 111.3 mph、90th EV 107 mphと持ち前のパワーを発揮しただけでなく、優れたZ-Con%とChase%を残しK%を20%未満に抑えるなど良い意味で予想外のアプローチを披露。

シーズン終了後にはトップ100プロスペクトにリストアップする媒体が続出し、Jasson DominguezOswald Perazaと共にAnthony Volpeに次ぐNYY傘下No.2を争う存在に。

翌2023年はSTに召集されるも、たった14 PAで7 Kを喫し、改めて粗削りなコンタクトスキルを露呈。

そのままA+で開幕を迎え、最初の4試合で3 HRを放つも、4~5月にかけてK%が35%前後、BB%が5%前後を推移し、Contact%が70%を下回るなどアプローチ面がスランプ状態に。

粗削りな素材型のプロスペクトらしくフルシーズン1年目はこのまま試練と我慢の1年間になるのかと思いきや、意識的なアプローチの修正に成功し、6月以降はContact%が75%以上へ向上。

それに伴いK%も30%未満、BB%も10%前後へ良化を見せ、トッププロスペクトとしてのアプローチスタッツ最低水準を確保。

シーズン序盤にハネていたBABIPが落ち着いてしまったため、思いのほか表面的な打撃成績は上昇線を辿らなかったものの、当然ながらNYYが表面的な数字でプレーヤーを評価している訳もなく、Everson PereiraJasson Dominguezのコールアップに合わせ8月終盤にAAへ昇級。

昇級直後は貧打に喘ぐも、最終盤戦の固め打ちで帳尻を合わせ、何とか打撃成績においてクラス平均をクリア。

結局のところ恐れていたダウンスイングは起こらず、プロスペクトランキングTop100の常連となり、NYY傘下No.1プロスペクトの座をDominguezと争う存在に。

補強市場においても幾度となく大型トレードの放出候補として名が挙がるも、NYYはアンタッチャブルに近い存在として考えていた模様。

また、今回のSTでは大きくビルドアップしたボディを披露しており、本記事執筆中に470フィートの特大HRをスラム。35°LAと非常に高弾道の一発であり、Statcastにおいて35°LA以上&470フィート以上を計測したホームランはたった6本(そのうち4本はクアーズ)しかありません。

さらに、現時点では空振りも喫しておらず、アプローチスキルにおいても成長を披露。

2024年シーズンはAAで開幕を迎え、順調に行けばシーズン後半戦にAAAへ到達する流れになるはずですが、翌2025年シーズン終了後にルール5ドラフト対象となるため、OFデプスがディープなNYYにおいて育成を急く必要は無し。


Hitting – 30/40

高身長とロングレバーはバッティングに適しておらず、Garrett Jonesを彷彿させるスイングはバレルのスイングパスとVBA&AAに問題を抱えており、下半身が完成されていなかったためか、低めのブレーキングボールに対し粘りのないゴルフスイングのようなアプローチを行ってしまい、コタンクトに苦しむ姿を多々目にします。

また、VBAが(マイナス方向に)大きいためか高めのフォーシーム系に対してもアプローチに苦労することが多く、特にプルサイドへフライを打ち込めない点は大きな課題。

現状として反対方向にパワーを発揮しているとは言え、類まれなるローパワーをゲームパワーへ十分にトランスレートするには、プルヒッティングの改善は必要不可欠でしょう。

まあ、アッパーゾーンのプルヒッティングについてはAaron Judgeですら克服できないような難しい案件ですが…

反対に高身長バッター最大のウィークポイントであるはずのインサイドに対しハードコンタクトを量産している点は大きなポジ要素。

NCAA時代は極端にLHPを苦手としていましたが、プロ入り後は対RHP/LHP成績に大きな乖離は見受けられず、特に2023年はシーズンが進むに連れ対LHP成績が向上。

この点に関してはRHPのCHが苦手な点も関係しているかもしれません。

また、上述の通りコンタクトスキルに難を示しているとは言え、NCAA時代から一貫としてZ-Conは危険水準を上回っており、Chase%においても平均より優れた数字を記録。

結局のところ、カウント毎のアプローチとゾーン外のピッチに対するコンタクトに問題があるという訳です。

ただ、現在参加中のSTにおいて披露しているハイレベルなアプローチが一過性ではなくホンモノの代物であれば、今回の40グレード評価は大きな過ちとなるでしょう。

Power – 60/75

PGイベントにて最上級のEVを計測し、高校生HRダービーにて優勝するなど、恵まれた体格と身体能力から繰り出されるパワーは早くから傑出しており、NCAA最終シーズンには当時の大学球界最高記録となるEV 119.1 mphを計測。

Avg EV(94.5 mph)や90th EVもNCAAで1・2位を争うレベルの数字であり、パワーしか取り柄がないドラフト2日目以降にピックされるようなファースト専ならまだしも、彼のようにCFを守るアスリート型が今水準に達するのは非常に稀。

プロ入り後のMax EVは113 mphに留まっていますが、2023年シーズンのAvg EV 93.8 mphはMiLB全体で99パーセンタイル超に位置する数字であり、Junior CamineroOwen CaissieJames Woodなどストライカーを上回り、BA100にリストアップされているプロスペクトの中で最高値とのこと。90th EVも65~70グレードに匹敵する109 mphと高水準です。

また、今オフは下半身を中心に長身瘦躯なボディへ大幅なビルドアップを加えており、470フィートの特大HRを放つなどローパワーの向上は明らか。今シーズンは110台後半のEVを幾度となく計測するはず。

ただ、特殊なスイング軌道のおかげか長らく低弾道に苦しんでおり、2021年NCAAにおいて平均6°LA、2022年Aクラスにおいて平均5.6°LAを記録。

続く2023年はハードヒットにおける平均LAが7°に留まり、多くのファクターで成長を見せている今STにおいても明確な改善は見受けられず、現在進行形でGBを連発。

さらに、コンタクトポイントが後方となることが多く、高いGB%(2023年は49.1%)の要因の1つとなっているだけでなく、上述したように苦手とするプルヒッティングにも悪影響を及ぼしており、逆方向への打球比率は95パーセンタイルをオーバー。

最上級のローパワーを十分にゲームパワーへトランスレートするためには、少なくとも低弾道とプルヒッティングどちらか一方の改善は必要不可欠でしょう。

ちなみに、ランチアングルとスプレーアングルのコンビネーションはDJ LeMahieuに似通っており、極端に言えば現状としてLeMahieuからパワーをプラス、コンタクトスキルをマイナスしたような状態。

まあ、Oneil Cruzの下位互換と言った方が分かりやすいかもしれません。

Run  – 60/60

兼ねてから文字通り”規格外”のスピードを誇り、高校時代にはドラフトイヤー前年のPGイベントにて60ヤード走6.76秒(プラスグレード級の数字)を計測。

2022年にはLoden Sports社のテストにて10ヤードスプリット1.71秒、MLBドラフトコンバインにて30ヤード走3.60秒(コンバイン全体6位)を叩き出し、実戦でもコンスタントに4.2秒前後の1B到達タイムを記録。

昨シーズンはChris Cleggの3B到達タイム11.00秒計測も話題となりました。(他の試合では11.5秒も。)ちなみに、2023年MLBにおいて11.00秒をより上位のタイムを記録したプレーヤーはたった3人。

このように身長関係なくスプリットラン、トップスピード共に平均を上回っており、この点もOneil Cruzに似通っていますね。

そのスピードを活かすため実戦でも積極的な走塁を見せ、ヴァンダービルド大時代にはEnrique Bradfieldの陰に隠れ、カンファレンス上位のSB数を記録。

さらに、プロ入り後は盗塁促進ルールの恩恵を受け、2022年シーズンに25試合で12 SB(CS無しのパーフェクト)、2023年シーズンに117試合で43 SB(78 SB%)を記録。

ベースランニングにおいて積極性が裏目に出ることも少なくありませんが、2023年シーズン後半戦にある程度改善された印象。

Field – 40/45
Arm  – 65/65

ヴァンダービルド大時代はEnrique Bradfieldの存在によりRFでプレーしていたものの、プロ入り後すんなりとCFへコンバート。

OF経験が少ないためかリアクションが悪く、落下地点へのルート取り(特に後方打球)をコンスタントに誤っていますが、その類まれなる身体能力とエクステンションである程度カバー。

打席と同様にOFフィールドにおいても巨体の扱いに四苦八苦しており、指導スタッフと共にKevin Kiermaierのプレーを研究しているとの話ですけど、グラブ捌き、ダイビング動作、落下地点への入り方、送球動作へと繋げる適切な捕球態勢の確保、フェンス際のステップは何れも稚拙。

確かにKevin Kiermaierは上記のフィールディング動作が異次元の域に達していて、最高のお手本となり得るはずですが、現状としてKiermaierからインプットしたはずのスキルを全くアウトプットできていません。

ただ、ピッチャーとして大きな故障もなくプレーしていれば今頃100mph前後を投げていたはずの存在で、その強肩はOFの平均を大きく上回る水準。

実際にこれまでMiLB上位の送球成績を残しています。

現時点でクオリティが低いとは言っても、より経験を積めばJumpやフィールディング動作は改善が進むと思いますし、持ち前の身体能力、スピード、強肩が組み合わされば、同じくアスレチック型高身長パワーヒッターであるAaron JudgeGiancarlo StantonJoey GalloのようにRFでプラスのディフェンダーとなる可能性も。

将来的にJasson Dominguezと併用するのであれば、個人的にはJones(CF)× Dominguez(RF/LF)を推したい。

Overall  – 35/55

ドラフト2022年クラス屈指のローフロアー・ハイシーリング型として評価が分かれていた存在ですが、思いのほかプロ入り後は極端なスランプに陥ることなく、すんなりとプロスペクト・ランキングTop100の常連に。

まだまだ他のトッププロスペクトと比べBustに終わる可能性は高いかと思いますが、薄っすらとフロアーが見え始め一安心といったところでしょうか。

というわけで、個人的なOverall評価は55 FVのボトムライン付近。

50パーセンタイルのアウトカムはDrew Stubbs以上、B.J. Upton未満といった印象で、トレードバリューは$35~40M。

NYYのようなコンテンダー所属であれば、レギュラーとして下位打線に名を連ねるようなプレーヤーへの成長が期待されます。

あとは”俊足のJoey Gallo”が75パーセンタイル辺りになるのかなと。

ドラフト直後からまるで”Aaron Judge Ⅱ”のような扱いを受けていますが、当然ながらJudgeは99パーセンタイル付近に位置するので、アウトカムを語るにおいて比較対象に挙げるべきではありません。

(正直なところ記事執筆開始時は50 FVに設定していたのですが、STでの姿を見て55 FVに引き上げました。)