前回の「オフシーズン開始前にヤンキースの現状をおさらい:2023年版」に続き、今回は「ヤンキースの戦力分析」として来シーズンの予測成績から現状のチーム戦力を把握します。
ノン・テンダー期限
現地時間11月17日のノン・テンダー期限に合わせルー・トリビーノ、アルバート・アブレイユ、アンソニー・ミセビッチの3人に対しノー・テンダーを行い、ジェイク・バウアーズをトレードにてMILへ放出。
この一連の動きによって来シーズンの総年俸を約600万ドルする形に。
また、バウアーズの対価としてMILからはDSL所属の19歳外野手Brian Sanchez、そして35 FVアッパークラスの20歳外野手Jace Avinaを獲得。
MILがバウアーズに如何なる価値を見出したのかは分かりませんが、彼の対価としては過剰なパッケージといった印象で、こういったローバリュー余剰要員のトレードにおいては、キャッシュマンの手腕を褒めざるを得ません。
ルール5ドラフトのプロテクト
ルール5ドラフトのプロテクトも期限を迎えており、今回はクレイトン・ビーター、アグスティン・ラミレス、カルロス・ナバエスの3人をプロテクト。
ノン・テンダーとプロテクトのトラザクションにより40人ロースターは現在36人となっています。
チーム総年俸のおさらい
上記のムーブによってNYYの総年俸は以下の通りに。
人数 | 総額(ドル) | |
来季年俸確定 (贅沢税対象分) |
7 | 1億7360万 (1億6580万) |
年俸調停(予想) | 8 | 3790万 |
最低年俸 | ? | 860万 |
マイナーリーガー | ? | 250万 |
契約負担 (贅沢税対象分) |
2 (1) |
1480万 (930万) |
年俸合計 | — | 2億3700万 |
その他(福利厚生費) | — | 1700万 |
贅沢税対象 (AAV総年俸) |
— | 2億4100万 |
年俸制限 | — | 2億3700万 |
超過額 | — | ▲400万 |
年俸制限ラインを400万ドルしか超過しておらず、贅沢税リセットも可能な位置にいますが、オフシーズン開始後の記者会見やインサイダー情報に関する報道を見る限り、リセットへ舵を取る可能性は流石にゼロ。
反対に山本由伸、ベリンジャー、ソトなどビッグネーム争奪戦参加の噂も流れ、ファンベースも総年俸3億ドル越えを求めていますが、NYYが大補強へのポーズだけを見せるのは毎オフ恒例なうえに、そもそも昨オフにジャッジに加えロドンと大型契約を結んだ時点で年間支出額(総年俸+贅沢税)は2022年以前の水準から5000万ドル以上引き上げられています。(ただし、インフレを考慮すると例年からの実質的な増額は3000万ドル程度。)
普通に考えれば2年連続で予算を引き上げるとは思えませんけど、この30年間でワーストのシーズンを過ごしたばかりとなると…。
年度 | 総年俸 | 総年俸 (贅沢税対象分) |
2019 | 2億1300万 | 2億3400万 |
2020 | 2億5100万 | 2億6400万 |
2021 | 2億200万 | 2億800万 |
2022 | 2億4900万 | 2憶6700万 |
2023 | 2億7900万 | 2億9400万 |
2024 (現時点) |
2億3600万 | 2億4100万 |
何にせよ昨シーズンと同等のペイロールを構えるとなると、今オフのスペースは約5000万ドル。
ただ、ジャッジ(8年320M)、コール(5年180M)、ロドン(5年139M)、スタントン(4年98M)、ラメイヒュー(3年45M)と多くの大型契約を抱えているだけの、金額以上の制約を受けるはずです。
現状のチーム戦力の分析・把握
ここからはNYYの現時点の戦力について記しますが、よくあるように選手名と昨シーズン成績を並べるだけで合理的な根拠もなく論ずるなど馬鹿らしいので、今年もプロジェクションシステムから導き出された2024年シーズンの成績予測値をベースに話を進めます。
ただし、今年は昨年と少し異なり、Marcelで打席数とイニング数の予測値に加えrWARとfWARの平均値を算出したうえで、Steamerの打席数、イニング数、WARと平均をとりました。
MLB経験が1年以下のプレーヤーやリリーフから先発に再転向するキングなどについては、Marcelを適用するのは非合理的なので、Steamerの値をそのまま流用。
また、面倒なので各WARのスケール調整は行っていません。どうせ調整したところで誤差の範囲内です。
野手陣
POS | 選手名 | 予測値 | |
PA | WAR | ||
C | ホセ・トレビーノ | 200 | 1.1 |
1B | アンソニー・リゾー | 520 | 1.3 |
2B | グレイバー・トーレス | 620 | 2.9 |
3B | DJ・ラメイヒュー | 570 | 1.8 |
SS | アンソニー・ボルピー | 580 | 2.5 |
LF | エバーソン・ペレイラ | 330 | 0.3 |
CF | エステバン・フロリアル | 260 | 0.6 |
RF | アーロン・ジャッジ | 590 | 5.5 |
DH | ジャンカルロ・スタントン | 450 | 0.7 |
控え選手 | |||
C | カイル・ヒガシオカ | 220 | 1.0 |
C | オースティン・ウェルズ | 220 | 0.6 |
IF | オズワルド・ペラザ | 300 | 0.7 |
OF | ジェイソン・ドミンゲス | 330 | 0.7 |
OF | オズワルド・カブレラ | 340 | 0.5 |
合計 | 5530 | 20.4 |
ポジション | 昨季WAR | 予測WAR | 増減 |
捕手陣 | 2.2 | 2.7 | +0.5 |
内野陣 | 7.0 | 9.2 | +2.2 |
外野陣(+DH) | 3.0 | 8.3 | +5.3 |
合計 | 12.2 | 20.2 | +8.0 |
(昨季WARはrWARとfWARの平均。複数ポジションでプレーした選手は最も出場機会が多いポジションへ配分。捕手のrWARはフレーミング得点を加点。)
捕手
守備型の2人(トレビーノ&ヒガシオカ)を併用しているため見栄えが悪く、惑星最悪のファンベースの中でも特に低脳な連中が声高く補強を唱えているポジションですが、実際には高いフレーミング能力によって平均を上回るパフォーマンスが生み出されているポジションであり、2人とも低年俸のためコストパフォーマンスはリーグ上位。
現NYYの強みの1つと言っても過言ではないポジションです。
また、オースティン・ウェルズが将来のコンバートを予感させる危なっかしい守備を見せながらも、ラスト5試合で3ホーマーを放つなど打撃面でインパクトを残し、来シーズンの期待値は上々。
取り敢えず補強の必要性は全く無く、反対に保有期間を残り1年残すヒガシオカの処遇に頭を悩ますところ。
ヒガシオカ級の捕手の市場価値は1年500万ドル超ですから、200万ドル強の年俸が見込まれる彼のトレードバリューは捨てたもんじゃありませんし、カルロス・ナバエスをプロテクトしたことも踏まえると、今オフ中の放出の可能性は十分。
外野陣よりはマシなパフォーマンスを残したとはいえ、8ケタ年俸4人(厳密に言えば3人)とトッププロスペクトを揃えたうえでこの結果は💩。
内野手としてハイコスパのIKFを本職3Bに固定することができれば、彼が2~3WAR程度を稼ぎ内野陣の底上げに寄与していたのでしょうが、残念ながら外野陣の崩壊がそれを許しませんでした。
その中でも低成績に終わったリゾーとラメイヒューは年齢的に大きな揺り戻しを期待できず、昨シーズン後半戦に好成績を残したトーレスのアップスイング、そしてボルピーのブレイクが実現しない限り強みとはなり得ません。
とはいえ、何だかんだで全ポジションにおいて40パーセンタイル以上のレギュラー選手を揃えているため、FA市場にて内野手が不作の今オフに手を付けたところで上がり目は少なく、リゾーとトレースがFAとなる来オフが補強のベストタイミングであることは明らか。
ありとあらゆるダウンスイングを経験し、rWARに至ってはMLBワーストに沈んだ外野陣はジャッジを軸に揺り戻す予測。
個人的な感覚では現在の面子が8 WARも稼ぎ出せると思えませんが、プロジェクションがそう言ってるんだから仕方なし。
ただ、昨オフはジャッジ再契約前の時点で7.2 WAR予測だったわけで、1年経ってまたもや振出しに戻ったと言っても過言ではありません。
現状としてヒックスへの投げ銭を2024年まで行う必要がありますが、スタントンも昨シーズンのパフォーマンスが続くようであればシーズン途中でのリリースが有力。
こういった悲惨な状況の中でNYYの今オフの最優先ターゲットはベリンジャーだと球界内外で噂されているものの、トレード市場の保有期間が短い選手、FA市場の短期契約で纏まりそうな選手の中にギャンブル性が高い万馬券候補が揃っているので、長期契約嫌いの私としてはそこら辺りに手を付けてほしいところ。
実際にマニュエル・マーゴについてTBRと既にコンタクトを取ったとのこと。
そもそも、大型契約に手を出す資金的余裕があるのであれば、ベリンジャーよりソトを優先すべきだと思いますね。せっかくトッププロスペクトの頭数が揃ってんだから。
投手陣
POS | 選手名 | 予測値 | |
IP | WAR | ||
SP | ゲリット・コール | 192 | 3.7 |
SP | カルロス・ロドン | 138 | 2.4 |
SP | ネスター・コルテス | 126 | 1.8 |
SP | マイケル・キング | 144 | 1.6 |
SP | クラーク・シュミット | 149 | 1.2 |
SP | ランディ・バスケス | 63 | 0.4 |
RP | クレイ・ホームズ | 64 | 1.1 |
RP | イアン・ハミルトン | 60 | 0.6 |
RP | ジョナサン・ロアイシガ | 51 | 0.4 |
RP | トミー・ケインリー | 55 | 0.4 |
RP | スコット・エフロス | 45 | 0.3 |
RP | ニック・ラミレス | 54 | 0.3 |
RP | ジョニー・ブリート | 54 | 0.3 |
RP | ロン・マリナチオ | 54 | 0.1 |
RP | グレッグ・ワイサート | 37 | 0.1 |
合計 | 1297 | 14.7 |
ポジション | 昨季WAR | 予測WAR | 増減 |
先発陣 | 9.5 | 11.1 | +1.6 |
リリーフ陣 | 7.4 | 3.6 | -3.8 |
合計 | 16.9 | 14.7 | -2.2 |
先発陣
ロドン獲得時点では球界最高の先発ローテを揃えていたはずが、そのロドンに加えセベリーノ、モンタスが死亡。コルテスのボーナスタイムは終了し、さらにハーマンもアルコールに溺れ、結果としてコールのCYAシーズンが無駄となりました。
絶望の中で8月終盤の先発再転向以降にコールをも上回るピッチングを披露したキングが唯一の救い。
ポスティング料も含めれば総額2億ドル越えが有力な山本の獲得が当然の如く切望され、年2500万ドル前後×5~6年契約が見込まれるモンゴメリーとのリユニオンを求める声も少なくはありませんが、別にNYYの先発ローテのプロジェクションって大して悪くないんですよね。
予測値≠期待値なのでロドンやキングが並ぶ先発ローテをプロジェクションで評価するのは危険ですが、実際にDepth Charts(ZiPS未反映)でもNYYの先発ローテはMLB全体6位。
ファンベースが吠えているほど優先してリソースを割く(特に目先の利益のために大型長期契約をかます)べきポジションだとは感じません。
もちろん先発投手なんて何人いても基本的に損はないはずですが、やはり複数年に渡ってオーバーラップする先発投手の大型契約は2本が限度だと思うんですよね。山本ならコール&ロドンとプライムタイムサイクルがズレる可能性があるとはいえ、先発ローテ5枠のうち過半数となる3枠を大型契約で長期的に埋めるってのはちょっと…。
そもそも、昨オフにロドンを獲得した時点で先発ローテへの大金投入はひと段落すべきなわけで、そのロドンが大コケしたからって、1年後にそれ以上の大規模な投資を行うなんて馬鹿らしくない?やってることギャンブル依存症と変わらんだろ。
同地区のアレク・マノアやタイラー・グラスノーがトレード市場に躍り出る中で、他地区のArb2~4プレーヤーをスティールできれば。
リリーフ陣
昨シーズンは運に恵まれ見栄えの良い成績を残したブルペンは、キングの先発再転向も相まって大きく数字を落とす見込み。
過去2シーズン連続で勝ちパ級の数字を残しているプレーヤーがホームズしかおらず、アップサイドへの期待よりダウンサイドへの不安が遥かに大きな陣形。
ただ、来シーズン年俸が600万ドルを超えるプレーヤーは1人もおらず、チャップマンやブリットンなど不良債権に頭を悩ませていた数年前と比べ幾分か健全な状況に。
層の厚さがウリのファームを活かしてエフロスをヘイデン・ウェズネスキで獲得した時のようなトレードをするもよし、ヒガシオカと40 FVプロスペクトのパッケージで格上を狙うもよし。
ただし、FA市場では早めに動いたATLが相場を引き上げています。
チーム全体
チーム全体の予測WARを勝敗に換算すると83勝・勝率.512(47.6+34.9=82.5≒83)に。
昨オフはオフシーズン開始時点に86~87勝程度の予測だったところから、大型補強によって97勝予測まで一気に引き上げましたが、今オフはソト&山本両獲りのような悪の帝国ムーブをかまさないと90勝越えすら厳しいでしょう。
また、外野の2スポットという明白なウィークポイントがあるとはいえ、野手WAR(20.2)と投手WAR(14.7)の比率はWARの野手:投手配分比とほぼ同じ58:42であり、投打全体のバランスはバッチリ。
まあ、投打の総年俸比率も同じような数字なので、金の使い方通りの結果にはなってるわけですね。
ちなみに、Depth Chart(Steamer)は現在85.5勝・勝率.528(MLB全体6位・AL4位・AL東地区3位)と高い評価を与えていますが、ZiPSが追加されると幾分か下がるのではないでしょうか。
ポジション | 昨季WAR | 予測WAR | 増減 |
捕手陣 | 2.2 | 2.7 | +0.5 |
内野陣 | 7.0 | 9.2 | +2.2 |
外野陣(+DH) | 3.0 | 8.3 | +5.3 |
先発陣 | 9.5 | 11.1 | +1.6 |
リリーフ陣 | 7.4 | 3.6 | -3.8 |
合計 | 29.1 | 34.9 | +5.8 |
WAR→勝敗換算 = 83勝 81敗(勝率.512) |
この程度のしみったれた戦力では、ハイレベルな東地区でPS進出を争う陣容を整えるなんて一筋縄でいくはずがなく、ロリコン追放とサラリーダンプのダブルパンチを受けるTBRの存在が僅かな希望。
愚かにもNYYが繰り返してきた大型契約を軸とする金満球団の”正攻法”補強もごっもともですが、過去30年でワーストのシーズンを終えた今は所詮アンダードッグ。
正攻法でぶつかったところでBALのタレントやTORの選手層に跳ね返されるのは目に見えていますから、現在のNYYに必要なのは当たって砕けろ精神。つまり、リスキーなプレーヤーとの短期契約やレンタルトレードを主体としたギャンブル補強ではないでしょうか。
確実性と共に2020年代終盤への負債を更に抱え込むより、数年後に立て直す余地を残しながら一か八かでPSを目指す方が、個人的には健全だと思います。(端的に言えばキアマイアーに手を出せってことです。)
というわけで、次の記事では今オフの補強予想(というよりむしろ願望)について記します。
コメント
先発ローテですが、先発転向後のキングは素晴らしかったし、いくらなんでもロドンやコルテスが今年のような感じで続くとは思えないので、僕も山本は必ずしも必要ではないと思います。
ただコールは24年オフにオプトアウトできるので、山本はその保険という意味であると思います。
スタントンは来期も微妙な成績が続くようなら、ドミンゲスが戻った時点で見切るような感じがします。
StantonはNYY以外の指導を受ければある程度持ち直すことができると信じているので、通算500HRのために1日でも早くNYYという名の監獄から解放されてほしいです。
予言させて頂きます!フロリアルは来シーズン絶対にブレイクします♡