ジャッジ残留&ロドン獲得後のヤンキースの現状をおさらい

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オフシーズン開始前後に「オフシーズン開始前にヤンキースの現状をおさらい:2022年版」と「ヤンキースの戦力分析と補強予想:2022-23年オフ」で当時のチーム状況(ペイロール、チーム戦力他)を取り上げましたが、アーロン・ジャッジカルロス・ロドンとの契約によりオフシーズン補強がひと段落したこのタイミングで再び触れておこうかと。



ペイロールと贅沢税

2023年ペイロールと贅沢税

今オフシーズンにおけるヤンキースの補強は下記の通り。

  • アーロン・ジャッジ(9年3億6000万ドル)
  • カルロス・ロドン(6年1億6200万ドル)
  • アンソニー・リゾー(2年4000万ドル)
  • ルイス・セベリーノ(1年1500万ドル)
  • トミー・ケインリー(2年1150万ドル)

額面上ではヤンキースにとってチーム史上最高額の大補強ですが、ロドン以外は全て残留or復帰であるためエンターテインメント性が×。その点に関してはCC・サバシアマーク・タシェアラAJ・バーネットを青田買いした2008-09年オフシーズンに遠く及びません。

上記補強後におけるヤンキースの現戦力(予測チーム成績)については記事後半で触れるとして、現在のチームペイロールは下表の通り。

まだ、保有期間内のプレーヤーのほとんどが契約を結んでいないため推測値とはなりますが、総年俸はこれまでのチーム史上最高額を軽くオーバー。さらに、AAV総年俸は2億9100万ドルに達しており、このままサラリーダンプなどが行わなければトレードデッドラインの補強で年俸制限第4ライン2億9300万ドルを超過することは間違いありません。

また、年俸制限第3ライン2億7300万ドルを超過すると、翌年のドラフトの1巡目指名権の全体順位が10位も下がることとなります。金額に換算すると約500万ドル弱の損失です。

  人数 総額(ドル)
来季年俸確定
(贅沢税対象分)
11 2億1800万
(2億1700万)
年俸調停(予想) 12 4800万
最低年俸 ? 720万
年俸合計 2億7300万
マイナーリーガー ? 250万
その他(福利厚生費) 1650万
贅沢税対象
(AAV総年俸)
2億9100万
年俸制限 2億3300万
超過額 5800万

AAV総年俸2億9100万ドルの場合の贅沢税は2750万ドル。つまり、ヤンキースは来シーズン中に総年俸2億7300万ドル(今後の補強で増大)、MLBロースターのマイナー所属選手年俸数百万ドル、福利厚生費他1650万ドル、贅沢税2750万ドル、合わせて約3億2000万ドルを支払う必要があるわけですね。(ドナルドソンのバイアウト600万ドルも発生予定)

贅沢税の計算方法については過去の記事を参考にしてください。当時から税率や制限ラインに変更が生じていますが、根本的は計算方法は変わっていません。

長期的ペイロール観測

まるで10年前の低迷期途中時のようにロースターの高齢化が進んでいるヤンキース

保有期間外のプレーヤーの年俸推移を下表にまとめましたが、2022年シーズン時点で既に年俸に見合わぬ選手がほとんどだったにも関わらず、リスキーな大型契約の連発によって長期的なチーム編成は危険水準に。

保有期間外プレーヤー

選手名 年俸(百万ドル)
2023 2024 2025 2026 2027
アーロン・ジャッジ 40 40 40 40 40
ゲリット・コール 36 36 36 36 36
ジャンカルロ・スタントン 32 32 32 19* 15*
カルロス・ロドン 22 27 27 27 27
ジョシュ・ドナルドソン 21.8 16*      
アンソニー・リゾー 17 17 17*    
DJ・ラメイヒュー 15 15 15 15  
ルイス・セベリーノ 15        
アーロン・ヒックス 10.8 9.8 9.8 12.5*  
トミー・ケインリー 5.8 5.8      

※スタントン:契約終盤はマーリンズが1年当り1000万ドルを負担
※ドナルドソン:2024年球団オプション1600万ドル(バイアウト600万ドル)

※リゾー:2025年球団オプション1700万ドル(バイアウト600万ドル)
※ヒックス:2026年球団オプション1250万ドル(バイアウト100万ドル)

今後3年間にFAとなる保有期間内のプレーヤー下表の通りですが、さすが若手のスター選手がいないヤンキース。中堅から小粒のショボいプレーヤーばかりで、良くも悪くもFA流出による戦力ダウンは許容範囲ですね。

ただ、来シーズン終了後FAとなるドナルドソンIKFはプロスペクト等で代替が可能なものの、セベリーノモンタスらの先発ローテの4~5番手に関しては、投手プロスペクトを売り払ってしまったヤンキースが代替選手を内部組織から用意するのは困難。とは言え、高騰により4~5番手クラスですら年俸1000万~2000万ドル(ないしそれに相当する対価)を支払う必要がある現在の補強市場においてこれらを賄うのは大きな痛みが伴います。

クラーク・シュミットなんてどうせ当てにならんぞ)

野手に関しては本項の最後に触れますね。

保有期間内プレーヤー(年俸調停対象)

野手 投手 
2023年シーズン終了後FA
ハリソン・ベイダー フランキー・モンタス
アイザイア・カイナー=ファレファ ワンディ・ペラルタ
2024年シーズン終了後FA
グレイバー・トーレス クレイ・ホームズ
カイル・ヒガシオカ ルー・トリビーノ
  ジョナサン・ロアイシガ
  ドミンゴ・ハーマン
2025年シーズン終了後FA
ホセ・トレビーノ ネスター・コルテス
  マイケル・キング

FA予定選手を除く今後の推測AAV総年俸(年俸確定選手+年俸調整対象選手+その他最低年俸等+福利厚生費)は下表の通り。

セベリーノドナルドソンモンタスら主力選手がFAになったとしても残る選手だけで2024年AAV総年俸は2億5000万ドルに上り、2025年ですら2億ドルに到達。

もちろん今後のヤンキースの補強予算次第ではあるものの、先行きが怪しいことは一目瞭然。だってメッツやパドレスですら2025~27年に見込まれるAAV総年俸はヤンキースを下回っていますからね。

AAV総年俸推移(推測値)

年度 AAV総年俸
2023 2億9100万
2024 2億5100万
2025 2億0000万
2026 1億8100万
2027 1億6900万

ボルピペラザドミンゲスを放出してブライアン・レイノルズなどスター選手を獲得すべきとの声も多いわけですが、そもそもヤンキースは2016~18年頃のBaby Bombers センセーションによって費用対効果が高い若手選手を数多く保有し、それ以降は比較的効率的なチーム編成を達成。

しかし、それに続くプロスペクトの育成に失敗(クリント・フレイジャーエステバン・フロリアルデイビー・ガルシア)してグダグダつく間に、Baby Bomber勢がFA権を取得するフェーズを迎えるハメなりました。

つまり、これまではFA前のBaby Bomber勢を安価に抱え込み恩恵を受けていたわけですが、今では彼らに成績に見合った対価を支払わなければなりません。その最たる例が今回のジャッジ大型契約でしょう。

よって、Baby Bomber勢から一回り(FA権取得期間6年が経過)した現段階において、Baby Bomber勢と入れ替えるべきプロスペクトの自軍戦力化を進めず安易に保有期間残り数年のプレーヤーとのトレードを行っていては、まともな長期的チーム編成が罷り通らないことなど明らかです。

特に投手プロスペクトを売り払った現状では、無理やり野手陣だけでもプロスペクトの自軍戦力化を実現しなければなりません。

過年度との比較

本項ではヤンキースのペイロール支出の年次推移に触れます。

ヤンキースの総年俸と贅沢税を年度ごとにまとめ、さらに各年度の合計値(総支払額)についてインフレ補正を行い2023年時点の貨幣価値に換算した結果が下表。ちなみに、最近の変動を踏まえ2023年米国消費者物価指数CPIを310に仮設定して計算を行っています。

年俸制限のリセットを行うためペイロールをケチった2018年を挟み2017と19年は補正後の値がほぼ同額。また、表に含めていませんが2016年も2億8000万ドル程度。

2020年はそれまでの傾向から打って変わって3億ドルを軽くオーバーしたものの、コロナ禍のシーズン短縮によって有耶無耶となり、コロナ禍により大きな損失を出したためか2021年はチーム成績を捨て再び贅沢税をリセットし、2022年にやっと以前の水準へ復活。

この流れを見ると、本来は2018年の贅沢税リセットから段階的に予算を引き上げ、2020年から数年間勝負するつもりだったのが、コロナ禍によって全て吹っ飛んでしまった感じかなと。

そして、2021年の贅沢税リセットから再び同様の取り組みを進め、2023年シーズンが前プランの本勝負開始年度2020年に当たるのではないでしょうか。

別に計画的なアプローチではなく、単にアメリカ経済の急激なインフレと高金利が理由かもしれませんが…。

年度 総年俸 贅沢税 合計 インフレ補正
2017 208.4 15.7 224.1 283.4
2018 182.7 0.0 182.7 225.6
2019 226.0 6.7 232.7 282.1
2020 250.0 24.7 274.7 329.0
2021 203.6 0.0 203.6 232.9
2022 249.0 9.4 258.4 271.5
2023 273.0 27.2 300.2 300.2

※金額の単位は全て100万ドル

オフシーズン開始時は浅はかな考えでヤンキースの補強予算を予想しちゃった私が偉そうに言えることではありませんが、日本と異なり経済変動が激しいアメリカで額面通りに受け取るのは御法度。

総年俸がチーム史上最高額を更新するとは言え、コロナ禍と比べて実質的なペイロール支出の増分は2000万ドル程度。ファンの思うほどヤンキースが財布のひもを緩めたわけではありませんね。

あと数千万ドルぐらい補強しないと、「来年は勝負の年なんだな!」と思えんよ。

戦力分析

セベリーノの球団オプション行使後にヤンキースの戦力を 87勝75敗(勝率.537)と評価し、年俸4000万ドル分の補強を行った場合 92勝70敗~94勝68敗(勝率.568~580)程度のチームが出来上がると記しました。

FanGraphsでDan Szymborskiが毎オフ恒例のチーム別ZiPS予測を公表しているところですが、ヤンキースは後回しにされ年明けの公表となりそうなので、上記と同じメソッドで現時点の戦力分析を行います。

ちなみに、FA契約を結んだジャッジロドンリゾーについてはZiPSの長期予測WARが公表されているので下表にまとめておきましょう。

年度 ジャッジ ロドン リゾー
2023 7.4 4.0 2.5
2024 6.6 3.6 2.1
2025 5.6 3.3 (1.5)
2026 4.6 2.8  
2027 3.5 2.3  
2028 2.8 1.8  
2029 1.9    
2030 1.4    
2031 1.1    
合計 34.9 17.8 4.6
(6.1)

前回、野手についてはMarcelの予測のみ、投手についてはMarcelとSteamerの予測の平均値を採用しましたが上記3人のZiPS予測は組み込まないこととします。

野手陣

野手陣の予測成績(WAR)が下記の通り。

レギュラー陣は全体的に貧弱なものの、ジャッジ1人で他ポジションのマイナス分をほぼほぼカバー。

さらに、重要性が見過ごされがちなベンチ陣容に関しても、ジャッジリゾーのおかげでラメイヒューヒックスが控えに回ることで底上げがなされており、結果として野手陣全体の成績は「MLB地区優勝を目指すに最も標準的かつ理想的なチーム構成を考える」に記した目標値にニアミス。

ヤンキースはブライアン・レイノルズマックス・ケプラーなど外野手のトレード交渉を進めているようですが、個人的にはプロスペクトを温存すべきだと思いますし、トレードデッドラインまでこれ以上大きく動く必要はないかと思います。

POS 選手名 予測値 目標値
WAR
PA  WAR
C ホセ・トレビーノ 380 1.5 1.6 -0.1
1B アンソニー・リゾー 540 2.1 2.7 -0.6
2B グレイバー・トーレス 500 1.8 3.0 -1.2
3B ジョシュ・ドナルドソン 470 2.2 3.4 -1.2
SS アイザイア・カイナー=ファレファ 490 2.9 3.9 -1.0
LF オズワルド・カブレラ 540 1.6 2.3 -0.7
CF ハリソン・ベイダー 400 2.5 2.9 -0.4
RF アーロン・ジャッジ 610 6.7 2.9 +3.8
DH ジャンカルロ・スタントン 490 1.7 2.1 -0.4
 控え選手
C カイル・ヒガシオカ 260 0.8 0.9 -0.1
IF DJ・ラメイヒュー 500 3.0 1.2 +1.8
IF オズワルド・ペラザ 240 0.9 1.2 -0.3
IF アンソニー・ボルピ 220 1.1 +1.1
OF アーロン・ヒックス 330 1.0 1.8 -0.8
OF エステバン・フロリアル 180 0.0 ±0.0
合計 6150 29.8 30.0 -0.2

投手陣

コールに代わる新エースのロドン獲得によって先発ローテは大きく底上げされ、Steamerの予測ではMLB最強ローテと評価されています

ただ、先発要員だったハーマンシュミットをスライドさせたとしても、依然としてリリーフ陣は大きな穴。

ケインリーこそ行ってはいますが、2021~22年の2シーズンでfWAR2.2(MLB全体25位)、rWAR2.1(MLB全体51位)を残したルーカス・リットキー(予測WAR0.5)にDFAをかましたことで、予測上においてケインリー補強分がほぼ帳消しに。

だからと言ってリリーフ如きに大金を叩くべきだとも思わないので、これ以上のリリーフ補強はトレードデッドラインでいいんじゃない?

POS 選手名 予測値 目標値
WAR
IP  WAR
SP カルロス・ロドン 171 4.5 4.9 -0.4
SP ゲリット・コール 187 3.9 3.7 +0.2
SP ネスター・コルテス 158 2.8 2.9 -0.1
SP ルイス・セベリーノ 131 2.0 1.8 +0.2
SP フランキー・モンタス 152 1.9 0.8 +1.1
 
S/R ドミンゴ・ハーマン 82 0.6 +0.6
S/R クラーク・シュミット 70 0.4 +0.4
 
RP クレイ・ホームズ 64 0.9 1.7 -0.8
RP マイケル・キング 57 0.8 1.4 -0.6
RP ジョナサン・ロアイシガ 61 0.7 1.0 -0.3
RP ワンディ・ペラルタ 61 0.5 0.8 -0.3
RP トミー・ケインリー 45 0.4 0.8 -0.3
RP ロン・マリナチオ 57 0.3 0.6 -0.3
RP ルー・トリビーノ 61 0.3 0.4 -0.1
RP グレッグ・ワイサート 52 0.0 0.2 -0.2
合計  1409 20.0 21.0 -1.0

チーム全体戦力

最後に野手陣と投手陣を合わせたチーム全体の戦力についてですが、各ポジションの合計WARは下表の通り。

WARにおいては「全選手がリプレイスメントレベルのチーム=シーズン47.6勝(勝率.294)」と設定されているため、ヤンキースのチーム予測成績は97勝65敗:勝率.599(47.6+49.8WAR=97.4≒97)となります。

ポジション 予測WAR 目標WAR 差分
捕手陣 2.3 2.5 -0.2
内野陣 14.0 15.5 -1.5
外野陣(+DH) 13.5 12.0 +1.5
先発陣 15.1 14.1 +1.0
リリーフ陣 4.9 6.9 -2.0
合計 49.8 51.0 -1.2
WAR→勝敗換算 = 97勝 65敗(勝率.599)

腐っても2022年シーズンMLB全体2位の得失点差を残したチームが、数年後以降を殴り捨てるような補強やってるわけなんだから、これぐらいの予測が出ないと困るわな。


これから開幕までにヤンキースが行うべきムーブは…(複数回答可)
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コメント

  1. 名無し より:

    ブログの一番上のコメント、昨日は物騒なこと書いてあったね😧

  2. うんこまん より:

    なぜリットキーをDFAしたんですかね。35歳とはいえ各種スタッツも悪くないですし、複数イニングもいけるしでかなり貴重だったと思うんですが。

    ガルシアあたりをDFAしとけばよかったのに。